あと一秒だけ
『悪い知らせ。もう一隊の爆撃チームは失敗した。大量の兵士に包囲され、対戦車ロケット弾で攻撃された。もう、わたしたちしかいない』
誘導されていない武器は欺瞞できない。【ピクシー】にRPGは鬼門だ。
「失敗できないな」
〈カイト〉が言ったけれど、状況はもう、すでに失敗に近い。
〈カイト〉の回避ルートは、バラックや倉庫のひしめく路地に設定した。全幅三.四メートルの戦車が通れるような道ではない。けれど【穿鎧】はかまうことなく、鋼板の壁を剥ぎ取り、鋼材をなぎ倒した。【穿鎧】の背後では、次々と建物が倒壊した。
唯斗は、倉庫の陰から飛び出した。最大出力で加速し、遮蔽物のない広い駐車場を走り抜ける。大きなショッピングモールのようだった。広大な敷地に、平べったいコンクリート製の店舗が、地面に浮かぶ巨大な島のように、広がっている。
たぶん周囲何十キロ範囲の住民が訪れる巨大ショッピングセンターだ。ゴシック体の文字の真ん中に星のマークを挟んだ、世界中で見かけるロゴが正面に掲げられている。すでに買い物客は避難していて、人影はなかった。
『ヌエ! 無謀。それでは狙い撃ち』
攻撃ヘリからの機銃弾が降り注いだ。何発かが装甲をかすめ、エニダイン社製の自壊式緩衝器が機能した。
「おい! ヌエ、説明しろよ!」カイトの苛立った声が届く。
「カイトは進路そのまま、交差する」
唯斗は、ショッピングモールの屋上駐車場に続く、ジャンプ台みたいな傾斜路を最大出力で駆け上がった。【ピクシー】が実際にジャンプして空中に浮かぶ間に、唯斗は、〈カイト〉の後を追う【穿鎧】を視界に入れた。
一瞬の視認で座標を入力し、唯斗は二発の【フランキスカ】を発射した。
砲塔上面の装甲は、どんな戦車でも薄い。そんなところにまで装甲を徹底すると重すぎて実用にはならなくなるからだ。ピンポイントで狙えば、抜ける筈だった。
唯斗は屋上駐車場の縁まで走った。足元のコンクリートスラブが破裂して、【ピクシー】は崩れた壁ごと転落を始めた。
ヘリの座標データを使って、【穿鎧】が砲撃したのだ。
唯斗の狙い通りだった。
転落しながら、唯斗は【穿鎧】の砲塔上部、昇降ハッチ付近を注視した。照準ビームが唯斗の視点に追随する。戦闘車両は見下ろす角度での攻撃が得意じゃない。こうでもしないと、照準することができないのだ。
突然、出力がダウンした。
放電限界だ。
量子バッテリーのパワーダウンは、化学電池とは違って、突然やってくる。
「おい、冗談だろ。あと一秒だけ――」




