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バルバロイ  作者: ずかみん
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アーキタイプ

  初期の段階で『ハルシオン』のシステム設計に参画したのは、人権活動家ではなく、反社会的な未成年のハッカーと、学会から異端扱いの数学者、それに異常犯罪者を研究する著述家だったそうだ。


 唯斗が生まれるより前の話だし、三人ともある事件で殺害されているので、詳しいことはあまりわからない。


 イカレテイタということしか。


 マスコミでは、『人類の前頭葉』と呼ばれたり、善意を味方につけたテロ集団と呼ばれたりする。どちらもあながち的外れじゃない、と唯斗は思う。


 ただ、集団と呼ぶのはあまり適切じゃない。『ハルシオン』に代表はいないし、事務局も、スタッフもいない。

 あるのはアルゴリズムだけだ。


 十年前に死んだ、人道主義者からは程遠い三人が作った、ブラックボックス。

 『ハルシオン』の意思決定のアルゴリズムを、今は亡き三人の設計者は”アーキタイプ”(古い心理学の用語だ。人類には種としての深層意識があるという概念だ。唯斗自身についてさえ、深層意識なんて高尚な物が存在するのかどうかは、はなはだ疑わしい)と呼んだ。


 三人は秘密を明かさないままこの世を去ったので、それがどのような概念であるのかは、誰も知らない。


 ともかく『ハルシオン』の武力行使は、特定の個人の立案によるものではなく、世界人口の二十分の一に及ぶ会員の見解を”アーキタイプ”アルゴリズムが抽出した総意によるものと、されている。

 現状で、『ハルシオン』を非難することは、自分自身の属する種である『人類』を非難することに等しい。


 個人としての人間の意志と理性を前頭葉が司っているように、人類の良識を司るのが『ハルシオン』だと主張する人たちがいる。これまでとは媒体が違う生物進化の第一歩だと。


 唯斗には、あまり興味のない話だった。


 唯斗に必要なのは、良識でも進化でもなく、ゲームと強力な敵だ。達成困難な目標だけが、唯斗に生きている実感を与えてくれる。


 物思いから覚めると、父はもうネクタイを締めて家を出る所だった。先ほどのエプロン姿とのギャップに、唯斗は眩暈を感じて、眉間を抑えた。


「きょうは学校に行けそうか?」

 父は、今日の天気予報でも尋ねるみたいに聞いた。

「努力するよ」

「そうか」


 よく考えれば、唯斗は父の仕事を知らない。製造業の管理職だとは聞いている。けれどなにを作っているのか、どんな仕事内容なのかを聞いたことはない。

 なんだか急に、父が、なんだかよく知らない他人のように感じられた。



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