神様なんか信じてはいないけれど
ノックもなしで、ドアが開いた。
ガムを噛みながら現れたのは、廊下で座っている見張りの兵士だった。
アビサは、おなかの赤ちゃんを庇いながら、ベッドの上で起き上がる。
兵士はリラックスしていて、怒ってもいないし、緊張してもいなかった。
料理の前にキッチンナイフの切れ味を確認するような感じで、拳銃を取り出して、あちこちをのぞき込んだり、軽く動かしたりした。それから部屋を見回して、アビサの枕を見つけた。
兵士は、枕の密度や厚みを、慎重に確認した。誰でも日常のつまらない作業で汚れたくはないと思う。兵士を責める気にはなれなかった。
アビサは、どうにか赤ちゃんだけでも助かる方法はないかと考えた。
無理みたいだった。
この病院に十分な数の保育器はない。
悔しいけれど、もうこれで全部みたいだった。これが、最後のページだ。
兵士はベッドを下りて、床に座れといった。
床に膝を着くと、そうじゃない。床に胡坐をかくんだ、と兵士が言った。
言うとおりにすると、首筋のところに枕が押し当てられた。枕越しに固い銃口を感じた。
神様なんか信じてはいないけれど、アビサは胸の前で十字を切った。生まれてから数えきれないくらいそうしてきたように。自分ではなく赤ちゃんの為に。
ごめんなさい。わたしはいい母親じゃなかった。