終末誘導
〈カイト〉機は最大加速で【穿鎧】の懐に潜り込んでゆく。もちろん、〈カイト〉はありったけの妨害手段を駆使している。【穿鎧】とカイトは、互いのセンサを落としたり、復帰したりを繰り返していた。
何度か【穿鎧】が砲弾を発射したけれど、測距情報を欺瞞しているので、弾頭はベージュ色の大地を抉っただけだ。
唯斗も機体を加速し、射撃に有利な座標へと移動する。
実際はGを感じる必要などないのだけれど、車両操作情報の一つとして、唯斗たちの全感覚インターフェースには比率を落とした重力加速度がフィードバックされている。車両を旋回させると圧迫感が適度に緊張を高めてくれた。
HAV-02【ピクシー】は、バイクの二輪に、両サイドの補助輪を加えた特徴的な車両レイアウトを持っている。
戦闘時は、両サイドの二輪で走行し、超信地旋回も可能だ。ぐっと視点が上がったのは、両サイドの補助車輪が車両を持ち上げて、旋回半径を小さく取れる『高機動モード』になったしるしだった。
【穿鎧】は完全に唯斗たちを軽く見ていた。遮蔽物を利用することなく〈カイト〉を照準に捉えようとしている。唯斗たちには有効な攻撃力がないことを知っているのだ。
唯斗は、自機の発射筒の二番から六番までを、飛翔中、慣性制御から終末誘導に切り替えるモードへ設定した。青い半透明のラインで表示される予定軌道は、一度上空に高度を上げてから、着弾寸前に高度を下げる。
唯斗は、【フランキスカ】の飛翔半径が、それぞれ、微妙に変わるよう、予定軌道ラインを視線でつまみ、微調整を行った。手を使わないだけで、マウスでするのと同じ操作だ。時間差を持って着弾するように、弾道を補正する。
「キオミ」
『攻撃を許可する』
発射薬で押し出された四つの弾頭は、空中で飛翔モーターに点火した。