それじゃあ、踊ろうか
「へぇ、面白くなってきたな」
無人攻撃ヘリ【殲鎧】から、二〇㎜口径の高エネルギー機銃弾が降り注いでいるのに、少しも動じることなく〈カイト〉は言った。
「と、いうことは降りる気はないね」
「この状況で降りられるかヌエ? おいしすぎるだろ」
今さらだけど、ピクシードライバーにまともな神経の奴はいない。
もちろん任務を断念する気はないけれど、唯斗は、頭の片隅の戦闘とは関係ない部分から、ずっと警告を感じている。
作戦は漏れていた。でなければ待ち伏せなど、不可能だ。
もちろん作戦の規模や趣旨も知られている。
手詰まりになった過激派グループの選択肢は、最悪、少女の殺害だ。『ハルシオン』は目的を失って撤収する。過激派グループはぎりぎりの面子を保つことができる。
いつでも実行可能な選択肢だ。こんなところで時間を喰っている場合じゃない。
アリーがいれば……と、唯斗は思う。
もしアリーがいたら、こんなことにはなっていないんだけどな。
「カイト、熱光学迷彩を解除して。あいつの鼻先でうろちょろしてよ」
「大きく賭けるねぇ。いいぜ、何秒持てばいい?」
『許可できない。カイトが被弾したら、作戦は失敗』
〈キオミ〉は、やや動転しているようだった。無理もない。今回は想定外の事態が次々とやってくる。
「キオミ。作戦情報が洩れてるよ。敵はちゃんと対策をして来ている。漏洩源は知らないけど。地中貫通爆弾が作戦の主眼だって知っているから、まっさきにチャーリー機が狙われた。カイトを餌にすれば、きっと食らいつく」
『……』
「キオミ、やれるよ。ぼくは出来ないことを出来るとは言わない。その逆は、よくあるけどね」
どちらにしてもヘリを無力化しなければ、この倉庫街を出て、遮蔽物のない侵攻ルートを辿ることはできない。
『……理解した。奇跡を見せて』
〈カイト〉機は熱工学迷彩を解除した。
「それじゃあ、踊ろうか」