作戦は遂行不能だ、普通であれば(イラスト有)
上空には雲もないし、急激に気温が上がる時間帯でもない。つむじ風は不自然だった。
「ヌエ。やばんいんじゃないか?」
「……くそ。倉庫の陰に回避」
「なに! どういうこと?」〈スタンプ〉はパニックになりかけていた。
「攻撃ヘリだ」
ヘリは消音ローターを装備していた。ローター音をマイクで拾い、逆相音波を高出力のスピーカーから放射して、飛行音を打ち消す装置だ。
X型のスタブウイングを備えた異様にコンパクトなハチドリ型の機体は、おそらく無人機だ。
唯斗は、確か南アフリカの兵器ショー動画で、その機体を見た覚えがあった。
ZTZ-28【穿鎧】は無人攻撃ヘリとセットで運用される。稼働時間の短さをカバーする為、ヘリには前線で補給可能なトランスポーターが用意されているのだ。無人ヘリの名前は確か【殲鎧】。
唯斗たちの進路を遮った、【殲鎧】は、対戦車ミサイルを発射した。ミサイルの予測軌道は、終末誘導が入ったとしても、唯斗たちを直撃できないことを示している。最新の機体にしては、お粗末な攻撃だ。
〈カイト〉も〈スタンプ〉も、軽く考えているようだった。普通に機動していれば、確かに直撃弾をもらうことはない。
でも、意味がない行動をするような甘い相手じゃなかった。
曲がりなりにも先進国の伝統をくむ最新鋭主力戦車と、その外部攻撃装置だ。
唯斗は意心地の悪い感じを覚え、手の汗をぬぐった。
「カイト、スタンプ。注意して。弾頭の正体がわからない」
弾頭は<スタンプ>の至近距離で炸裂した。通常の弾頭とは違う。青白い閃光。
〈スタンプ〉の機体が、バッテリー切れのように、瓦礫だらけの大地に伏してしまうのが見えた。直撃していないのに、糸が切れた人形のような、突然の機能停止。
と同時に、唯斗たちの視覚野にも激しいノイズが走る。神経接続が手続を踏まずに断線する時の、掻き毟られるような不愉快な感覚。デリケートなセンサのいくつかはダウンして、再起動のチェックシークエンスが、バックグラウンドで始まる。
頭足類が色素細胞で表現する攻撃色のように、唯斗たちの迷彩は電磁波に反応して、明滅した。
「な、なんだいったい?」
〈カイト〉の声は混乱していた。
「たぶん、EMP弾頭だ。はじめて見たけど」
〈スタンプ〉の機体は効果半径内にいたので、再起動できなくなった。
「ハルシオンで開発中だろ? 先をこされた?」
『もしかしたら技術を盗まれたのかも』
厄介なことに、EMP弾頭はある程度の効果半径を持つので、使用する側は、必ずしも直撃を狙う必要はない。
ショットガンみたいに腰だめで打てる弾頭だ。熱光学迷彩を装備する者同士の戦闘で、このアドバンテージは、思っている以上に大きい。
会敵後、一分以内で、チームの五機中三機までを失った。
事実上、作戦は遂行不能だ、普通であれば。