成果を確かなものにする為の助長性
作戦の要なので、爆撃には、唯斗たちを含めて二チームが当てられている。成果を確かなものにする為の助長性だ。
『予定時間を再確認。進捗状況をグラフに可視化。みんな参考にして』
〈キオミ〉の声が届いた。
攻撃のタイミングは大事だ。速すぎれば救出部隊の到着が間に合わず、少女は殺される。遅すぎれば救出部隊は身動きが取れず、やっぱり少女は殺される。
唯斗は、機体の速度変化で微妙に目盛りが増えたり減ったりするグラフを視野の隅に置きながら、透明な淡いブルーで視野に示された自分の警戒区域を確認する。
チームが五人編成なのは、前後左右と、無人機を使った上空に、警戒区域を割り振った結果だ。
唯斗は、〈トラッシュ〉の機体が変な動きをしていることに気付いた。少しずつ遅れて隊形を乱し、距離を取っている。迷彩の効果でセンサは姿をとらえていないのだけれど、視覚野には共有情報から再構成されたCG画像で、僚機の様子が映っている。砲塔が旋回していた。
「チャーリー。回避だ」
「はあ?」
唯斗の脳を、げんなりするような既視感が襲った。
また同じパターンかよ! 唯斗は苛立ちを感じながらも、努めて冷静に言う。
「トラッシュにロックされてる。回避だよ。今すぐ」
〈トラッシュ〉の姿が消えた。C4Iシステムにデータの受け渡しを拒否したのだ。
<チャーリー>機が、爆炎に包まれた。唯斗の皮膚感覚に衝撃波がフィードバックされる。視覚野の端にある<チャーリー>機のステータスは、次々と緑から赤に変わってゆく。
コントロールを失った機体は路上をバラバラになりながら横転してゆく。道をゆく住民は、突然出現したスクラップに驚いていた。地中貫通爆弾も破片をまき散らしながら、アスファルトの上を滑ってゆく。
安定爆薬を使用しているので誘爆の危険は低いけれど、もう使い物にならないのは間違いない。誘導爆弾は、控えめな表現をしても、超と冠詞がつくくらい精密な電子機器だ。
「な、なんだこれ、コントロールがきかない。オイラは指示してないぞ」
そりゃそうだ。コントロール出来ていたら友軍機を攻撃していない。唯斗はため息をつく。
「トラッシュ。暗号変換のコード、規定通りに変更してないだろ」
唯斗が尋ねると、〈トラッシュ〉は心外そうに答えた。
「だって旧式が相手だろ? 暗号変換なんか、そもそも必要ない」
違う、旧世代戦車にこんな芸当はできない。敵は、少なくとも第四世代機以上だ。
そんな間にも、〈トラッシュ〉機は、僚機への攻撃を続けていた。
「うぉお、あぶねぇよ」
〈カイト〉機はチャフを放出した。アルミフィルムを蒸着したフィルム片が、可視光を遮る為の白煙と一緒に球状のシールドをつくる。スポッティングレーザーが散乱し、〈トラッシュ〉機のミサイルは目標を見失って自爆した。
「トラッシュ。悪いけど……」
〈トラッシュ〉の声は暗かった。
「オイラ、Bリーグ落ちしちゃうかもな。いいよ。やってくれ」
唯斗は〈トラッシュ〉の機体にロックオンし、【フランキスカ】を発射した。対抗手段をとっていない〈トラッシュ〉機は簡単に被弾して、アルミニウムとチタン合金の塊になった。
唯斗は、道路沿いの建物の陰に、ゆらめくシルエットを確認した。唯斗たちと同じレベルの熱光学迷彩。唯斗はためらわなかった。
視線誘導で【フランキスカ】を発射。終末誘導に備えて、シルエットを注視する。
『ヌエ、識別が完了していない』と、〈キオミ〉が、勝手な攻撃を非難する。
「味方なわけないだろ!」
唯斗の発射した【フランキスカ】が、シルエットを捉えた。閃光が走り、爆煙が砲塔付近を中心にして膨らむ。
「当たった……どうだ」