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バルバロイ  作者: ずかみん
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人類の原罪をなぞっているだけ

 道路の路肩には、少し焼け焦げたバスが放置されていた。動物を避ける為か、それとも雨季の増水に配慮してなのか、リジエラの道路は、周囲より高く土を持った土手状につくられている。


 今は乾季なので周囲の灌木は、やや色あせていた。

 舗装こそされてはいたけれど、よく整備された道路と表現するのは難しい。ガードレールはあちこちで引き倒されているし、走っていると、突然、クレーターみたいな穴が現れる。


 慎重を期して、唯人たちは侵攻の速度をやや緩めることにした。

 時間的には十分先行しているし、巡航速度の六〇パーセントでも、走輪戦闘車両である【ピクシー】は、無限軌道を採用する主力(MBT)戦車には考えられないスピードで、移動することができた。


『一般車両に、あなた達は見えていない。忘れないで』


 熱光学迷彩塗装の擬態は完璧ではないけれど、〈キオミ〉が注意する通り、そこにあると思って見ない限り、なかなか一般の人には見つけられない。


 唯斗たちが、擬態中の戦車をすぐに発見してしまうのは、簡単に言えば訓練の結果だ。


 前を走るトラックに、唯人たちは追いついた。


 トラックの荷台には、道路建設の日雇い労働者たちが、すし詰めになって座っている。すれ違いざまにちらりと見ただけだけれど、男たちはリジエラの一般的な労働者より着ぶくれていた。


 暑いのに、シャツや上着を着込んで肌を見せていない。リジエラでは不自然な服装だ。まるで、衣服の下に隠さないといけないものがあるかのように見える。


『協力者たちの車。二重になった床の下に銃を隠している。厚着なのはボディアーマーを隠すため』


 救出部隊のトラックは足が遅いので、唯斗たちより先行して出発していたのだ。


 協力者たちのトラックは、唯斗の視覚野の後方に、小さくなって消えた。


 唯斗は、やや緊張した面持ちで車に揺られていた、協力者たちのことを考える。

 協力者たちは、報酬も名誉もなく、この作戦に参加した。

 そのほとんどは軍人や警官だ。もし身元を明かされれば、たちまち社会生活が危うくなる立場の人間も、その中には含まれている。


 原則、リジエラの人々は、優しくて気立てのいい人たちだと聞いている。その証拠に、たくさんの協力者たちは、みな報酬もなく善意だけで集まっていた。その気立てのいい人たちが、集団を作り立場を別にすると、憎しみ合い、命のやり取りをするようになる。まるで呪いだ。


 神様が人間にかけた呪い。それは種としての人類が繁栄するために必要な機能のひとつなのかも知れないし、利己的な遺伝子が自己保存のためにふるまった結果の、機能的不具合なのかもしれない。


 たとえば、『ハルシオン』が、テロリストが民衆を手にかける数より、ずっとたくさんのテロリストを殲滅したら、『ハルシオン』の行為は正義だろうか?


 子供や、か弱い女性が死ぬわけじゃない。世界の論調は『ハルシオン』を擁護するかもしれない。でもそれは生命活動という自然現象の観点で言えば、紛れもない虐殺だ。


 人類の歴史上で、善意は、悪意や利己的なふるまいよりたくさんの人々を殺してきた。

 もしかしたら、どんなに数学的な根拠を主張しても、『ハルシオン』自体が、人類が持つ野蛮な本能を、外部に電子化しただけのものに過ぎないのかもしれない。


 もし、そうだとしたら、唯斗たちに正義なんてない。人類の原罪をなぞっているだけだ。


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