眠って、目を覚まし、息をする
目を閉じて、痛みに身構えていると、もう一人の兵士の声がした。
「おい、撃つな!」
その兵士は、覆面を脱いで、白い歯を見せて笑った。アビサの顎をつかんで、顔を上げさせた。
「よく見ろよ。上玉だぜ。殺したら楽しめない」
それからのことはあまり話したくない。
いろんなところに連れていかれて、妊娠して、改宗を迫られ、それを断るとアビサはこの病院に連れてこられた。
ここでは、ずっと同じ毎日だ。
ごはんを食べて、診察を受ける。眠って、目を覚まし、息をする。
何度か逃げようとしたけれど、そのたびに見張りの兵士につかまった。不安定な時期だったので、暴力でのお仕置きはなかったけれど、赤ちゃんごと殺すぞ、と、何度も脅された。
望んで妊娠したわけではないけれど、おなかの中で日に日に大きくなる赤ちゃんだけが、アビサの楽しみになった。
赤ちゃんは確かに生きていた。アビサのおなかを蹴ったり、寝返りを打とうとしたり、光や音にも反応した。
生まれた後、取り上げられた赤ちゃんがたどる運命については、寄宿舎の頃、噂で聞いたことがある。奴隷、ペット、医療資材。そんな目に会わせることはできない。生まれてこなければよかったと思うようなことにはさせたくない。
一度だけ外国人がやってきて、アビサたちは取材を受けた。
罰を受けるのは分かっていたけれど、アビサはカメラの前で助けを求めた。
アビサは殴られて、この独房に移された。狭くて湿っぽい物置きみたいな部屋。窓というより換気口と呼んだほうがいいような開口には、鉄格子がはまっていた。
首には、ICタグが埋め込まれた。
反抗的な患者で、逃亡の可能性が高い、ということだろう。
助けは、やってこなかった。
わかっている。
アビサが自分でなんとかするしかないのだ。