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バルバロイ  作者: ずかみん
13/72

【カブレラ・ストーン】

「あ、アリー、アリーまずいよ。いま父さんは仕事でいないし……」

「いたら、もっとマズいことなると思うけど」


 それもそうだ。


「せまい。なんなのこれ? 日本人はこれで普通なの?」

「普通だよ、べつに貧困家庭じゃない」


 ていうか、〈アリー〉が金持ちすぎるだけだ、と唯斗は思う。


「ヌエの部屋はどこ?」

「……部屋はやめて」

「なによ。隠すことないでしょ。見てみたいの。年頃の男の子の部屋」

 〈アリー〉の瞳は、らんらんと光っていた。

「スケベ親父かおまえは……おい、ちょっと……やめ……やめてぇ!」


 西部劇みたいに仁王立ちでドアを開け放った〈アリー〉は、戸口で立ち尽くしたまま動かなくなった。


「信じられない」


 〈アリー〉は、ぽかんと口を開けていた。

 部屋が少し片付いていないのは、唯斗自身にだってわかっている。床には古本や雑誌が積んであるし、脱いだ洗濯物も少しだけ、貯まってないこともない。机にはカップ麺とかカップ焼きそばとか……カビが生える前にはキッチンに移すようにしているし、DVDとか、まあ、エッチな雑誌も、ぜんぜん持っていないわけじゃない。


 〈アリー〉が、床に落ちたDVDのパッケージを、指先でつまんで拾い上げた。


「アリー! それを床に置くんだ。怪我をさせたくない。今すぐにだ(ライトナウ)!」

「人妻とか……ありえない。あんたマザコンなの? エロガキ」


 初等学校の少女に、マザコン呼ばわりだ。唯斗はうつろな目で、天井を見上げた。

 なんだろう……犯されているみたいに恥ずかしい。


「ほんとうに信じられない。ヌエは食用(ブロ)(イラー)なの? くさいし、歩くこともできない」

「うるさいな、勝手に押しかけといて。嫌なら帰ればいいだろ」

「ふーん、そういうこと言うんだ」


 〈アリー〉は唯斗のベッドで、足を組んだ。大人の女性みたいに。


「なにしに来たんだよ」

「あたしを負かした男の顔を、見に来たの」


 〈アリー〉は腕組をして、まじまじと唯斗の顔を眺めた。目を合わせると、吸い込まれそうになるような、澄んだ瞳だった。値踏みされるような感覚は、唯斗を落ち着かなくさせた。


「なんだか、がっかり」

「余計なお世話だよ。べつに負かしたつもりなんかないし」

「なにがあったの?」

「なにって」


 唯斗は心の中で首を縮める。なに? とか、どうして? とか、人間の使う言葉は、デリカシーがなくて残酷だ。


「冷静沈着が売りでしょ。八つ当たりなんて、らしくないから、なにかあったなって思う。普通じゃない?」

「べつになにもない。虫の居所が悪かっただけだよ」


 〈アリー〉は、中古ショップで買ったジャンク品のモニターと一緒に、床のがらくたの中に紛れている古いゲーム機を、見つけた。


「それ【カブレラ・ストーン】じゃないの?」


 〈アリー〉の声は、四年に一度のビッグウェーブを前にしたサーファーみたいに上ずっていた。

 【カブレラ・ストーン】は【ネブラ・ディスク】より三世代前の機種で、ハイスペックゲーム機の先駆けになった機種だ。ゲーマー伝説のマシン。

 VR装置も感覚入力デバイスも装備していないけれど、その輝けるソフト群は今も色褪せない。唯斗は、運よくネットで入手した。バイクが買えそうな金額だったけれど、安い買い物だったと、唯斗は思っている。


「お、気がついた? お目が高いね、お客さん」

「すっごい。なつかしい」

「なつかしいって……発売された時、まだ生まれてないだろ?」

「ずっと昔に、雑誌の記事で見たの。欲しかったけどお金だけでは手に入らないから……少しだけやってもいい?」

べつにいい(ホワイノット)よ」

 返事を聞いて、華やいだ顔の〈アリー〉は、年相応に幼く見えた。


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