CollaboratorsOnly(イラスト有)
正直、唯斗はそんな眉唾な噂を信じていたわけじゃない。ただの都市伝説だ。
もしかしたらシェアの拡大を狙ったソフトメーカーが、意図的に流した噂かもしれないし、もちろん夢見がちな少年たちの空想かもしれない。
不審な点はあった。販売元のソフトメーカーは、ゲーム機【ネブラ・ディスク】を販売する大手OSメーカーの強力なバックアップを受けてはいたものの、これまでに高度なシミュレーションゲームを開発した実績は、一度もなかった。
外目には、突然、技術とノウハウが降って湧いたように見える。
唯斗としては、噂などあまり関係なかった。唯斗にとって確かなのは、『バルバロイ』が目的を与えてくれる、ということだけだ。
プレイを重ねるごとに【ピクシー】は体の一部になり、ミッションの達成回数とともに、唯斗のプレイヤーランクも上がっていった。
世界ランキングの上位に数えられるのが当り前になった頃、登録したメールアドレスに、一見、スパムのような怪しいメールが届いた。
あなたは【ピクシー】ドライバーとして、類いまれな操縦スキルと戦闘のセンスを有していることが認められました。
このメールは「提案」であり、あなたになにかを強制したり、あるいはなにかを約束したりするものではないことを、最初にお断りしておきます。
もしあなたが、いくらかの報酬と、よりリアルな戦闘を望むのであれば、わたしたちは、これまでと違った形の提案をする準備があります。
ある種の犯罪や利潤追求のように、あなたに後ろめたい思いをさせるものではありません。
我々は、人がより人らしくある為に尽力するシステムです。
もし興味があれば、空メールを返信くださるだけで結構です。
提案の内容は、あなたがプレイする『バルバロイ』のインターフェース上に表現されます。
from Halcyon to Nue
人工知能が書いたような味気のない文面には、言語としては完全に意味不明のメールアドレスが貼られていた。
<Nue>とは、唯斗が『バルバロイ』をプレイするために登録した、ハンドルネームだった。
なんだか、悪い冗談みたいだと思ったけれど、頭の片隅で、唯斗は、なるほど、これが噂の正体か、とも思っていた。
夢を見ているような気分で、唯斗はメールを返信した。文面は「冗談はよせ」だった。
それから一週間後、『バルバロイ』に新しいメニューが追加されていた。
追加されたメニューは、
『CollaboratorsOnly』
協力者のみ、という言う意味だった。