特別なステージ
唯斗がその存在を知ったのは、四年前、まだ小学生の頃だった。
唯斗がプレイしていたのは、市販の疑似戦闘ゲームだ。世界最大のソフトウェア会社が提供する家庭用ゲーム機【ネブラ・ディスク】で動作する人気タイトル、『バルバロイ』。
『バルバロイ』は、全感覚型インターフェース黎明期に発売された、いくつかのゲームタイトルの一つだ。
第五世代戦車【ピクシー】を操作して、様々なミッションをクリアしていくゲームだ。似たようなゲームは何十年も昔から存在している。
第5世代戦車とは、非対称戦、低強度紛争が戦争行為の主な舞台となって、新たに出現した戦闘車両形態だった。
より強力な火器、より堅固な装甲を求めて重量を増していった、正当な戦車の進化樹につらなる主力戦車とは違う。限定された目的の為だけに、取捨選択をして研ぎ澄まされた機体。
第四世代戦車より強力というわけではない。第四世代戦車が標準装備とする120㎜滑空砲は、第五世代戦車を、ブリキのおもちゃみたいにスクラップにする。
特徴としては、
〇電子戦に重きを置き、センサのジャミング、即時情報共有による優位と、それ以上にハッキングによって戦闘支援を阻害し、目標を孤立した状態に追い込むことを重要視する。
〇対戦車砲に対する防御は度外視し、機動性をもって被弾しないことを前提とする。
〇前記の事由により、機動性を損なう無限軌道を採用しない。動輪によって機動するため、車両安定性が必要な砲は装備しない。主武装は複合センサを搭載した小型対戦車ミサイル(歩兵が携行するため設計されたものをベースとする)である。
〇十分な防御力を持たず、また、人体の限界を超える高機動性能を発揮するため、無人(無線操作)で運用される。
と言った点があげられる。
『バルバロイ』は、各地で紛争が頻発する二〇三○年代の社会的な背景をストーリーに組み入れ、リアルな考証と、演出としては助長すぎると思われるほどの背景描写――ゲーム中では、作戦の目的や任務の分担、補給方法、想定される敵武装など、実際の軍隊と同様のブリーフィングが行われる――で、世界中のコアなゲーマーから、人気を集めた。
たいていは重武装したテロリストを相手にするミッションで、戦績はデータベース管理され、すべてのプレイヤーがランク付けされる。
噂は、ゲーム中のエクストラステージに関するものだった。
【ほんの一握りの上位プレイヤーには、特別な戦場が用意されている】
世界中で噂されていた特別なステージとは、つまり実戦、現実世界に存在する、リアルな弾頭と装甲で戦う戦闘のことだ。