妖精と人間
昨夜屋敷を出たミスリルは魔力の濃い森に向かって歩いていた。羽をしまっても耳が尖っているうえに色合いが人外じみているので好奇の目で見られるのが嫌で、細い路地を猫とお話しながら通っていたところ、後ろから優しくつままれた。
「ふわっ?」
びっくりしたミスリルはつまんでいる主を見ると目を丸くした。先ほど出発した屋敷の若夫婦の男の方が自分を追いかけてきたのだ。
「君がミスリルちゃんかな?」
優しく微笑むサジェの見た目は金髪に緑の目。王族然とした雰囲気だが悪戯好きのようなネコ目が特徴だろう。
「うむむ、まさかつかまえられるとは…」
ぶらん、とサジェに掴まれた格好のミスリルは捕獲をしにきた若夫婦をむすっとしながら見上げる。
「うふふふ、捕まえちゃった!ね、ミスリルちゃん、私達の子供にならない?っとと、まずは自己紹介かしら。私はアンジェリカよ。」
「夫のサジェだよ。妖精に連れ去られたのは姪のレアリア。義姉の子供で、少々問題がある子でね、押し付けられたんだけど、義姉が行方不明になってね…きちんと育ててあげようと思ってたけど、妖精に気に入られちゃ手が出せないから彼らが甘やかさずに育ててくれればいいのだけど…」
「そうか、めいごさんだったか…。…きょういく?あのりょうしんが?むりだろう。ははとちちはきれいなものがすきだからな。なかみがきてれつだとなおよろこんであまやかすだろう。ようせいはきれいなものとおもしろいことがだいすきなのだ。」
「…だろうね。というか君の親御さんだったのか、妖精って。」
「ああ、ようせいだとしてもじぶんのしょゆうぶついがいをおいていくわけにはいかないからな。かれらはじぶんたちからうまれたみどりいろのしきさいがおきにめさなかったようだ。じぶんたちはまっかっかなのだけど。」
話しながら屋敷に向かう夫婦にミスリルは自分の髪をいじりながら話す。
「というかほんとうにわたしをようしにするつもりか?みどりのかみではねもこうせきがつながったようなちんみょうなようせいだぞ?」
「もちろんよ!妖精の中で珍妙だとしても私はそうは思わないわ。むしろ私なんて人間の中の魔族なんて称号をもらうくらい人間らしさとは無縁なのよ!」
「アンジェ、胸を張るところじゃないと思うよ。」
ミスリルはポカンとしていたが、ふむ、とうなずくと
「…わかった、おせわになろう。」
にっこりと笑い、夫婦を悶えさせたのだった。