たいむすりっぷ
「で、どうやってタイムスリップができるんだ? 」
『知らん』
「はぁ!? ざけんなぁ!! 」
部長が銅像の台座をドカドカ蹴り始めた。しっかりした性格だから、こういうの許せないんだろうなぁ。
『痛いっ! 痛いっ! 』
あんた神経無いだろ。しかも台座蹴られてなんであんたが痛がるんだ。
部長が十回ほど蹴った時、美鈴が俺の真後ろでぼそっと呟いた。
「……来る」
その瞬間に、視界が真っ白になった。
「……っ!? 」
息ができない。耳も聞こえないし、視界は真っ白だ。ジェットコースターが真っ直ぐ落下した時のような感覚が全身襲う。
そして、俺の脳内に様々なものが一気に焼き付いてきた。
(これは……記憶!? )
膨大な景色が、声が、感情が俺の中に入ってくる。
(くそっ……頭がパンクしそうだ)
俺は校長先生の記憶を取り込むうちに、言っていた「未練」の全てを理解した。
——校長先生は大商人の息子として生まれそのコネで仕事を展開していた。彼が大人になった時は、戦争の真っ最中だったが、病気で軍への招集を免れたらしい。そして病気が完治していた頃には、日本は戦争に敗北していた。
彼は後悔した。同世代の人々が皆赤紙を受け取り戦地に飛び立ったのに、自分だけが都合良く助かってしまったことを。
自分に国のためできることは何か。そんなことを考えていたときに、若き日のじーさんはある廃学校を見つけた。
教職員は戦地に招集され、地域疎開で子供が散り散りになった学校。一面畑のグラウンド。一部には防空壕を掘ろうとした跡も。
そして、彼は戦争により親が死にひとりぼっちになった子供達、つまり戦災孤児を助ける活動を始めた。親類には関わるなと強く言われたが、それでも自分にできることはこれしかないと思った彼は子供達のための寝床を作り、空襲で焼け焦げた校舎を建て直すことから全てを始めた。
協力者も一人、また一人と増え、子供もどんどん集まっていった。孤児だけではなく、経済的に厳しい生活を送る子供も受け入れた。彼は校長先生となったんだ。
そんな校長先生の未練は、彼の生涯の中でたった一人、救えなかった子供のことだ。親を失ったショックから人と向き合えずに、ずっと一人で歩いていた少女。説得しようとしたら路地裏に逃げられ、追いついたと思った時には彼女は姿をくらましていた。それ以来その子を見た人はいなかったという。
とこんな感じに頭に勝手に記憶をぶち込まれながら、急に感覚は元に戻った。
「げほっ! げほっ……」
息をすることができなかったので頭がクラクラしている。
「生きてる……」
自分の情けない肉体を確認して、とりあえず俺は安堵した。
そして俺は、正面を向いた。そこには、校長先生の銅像は無かった。今目の前にあるのは、大きな木造の建物。空もどう見ても真昼間だ。
——ここは間違いなく、過去だ。
「あぁ……お前ら生きてたか」
後ろから聞きなれた凛とした声が聞こえた。良かった、部長は無事らしい。
「ふはぁ、死ぬかと思ったー……って何ここ!?」
奈々も元気だ。美鈴も……
「うぉえええええええ」
大丈夫じゃなさそうだ……。美鈴が這いつくばって今にも胃の中のものを戻さんとしていたっ!
「おいおいおい大丈夫ですかー!? 」
すぐに側に駆け寄ったものの、げろげろしそうな奴に何をしてあげたらいいかわからない。
「いうぉいあぅい……(気持ち悪い……)」
そう涙目で訴えてくる。すまない、お前が可愛いということ以外伝わってこない。惚れてないぞ。
「おいちび助、仕方ないからこのバケツを使え」
部長がどっから持ってきたのか、小学校にありそうなブリキのバケツを美鈴の前にコンと置いた。
「うぇうぉうぉえうぉうぉうぉうぉうぉうぁ……(でもそれここのものじゃ……)」
「そんなことを言っている場合か! 」
部長は美鈴の頭を掴み、無理矢理バケツの上に引っ張って背中をバシッと叩いた。
「おぇえええ……」
美鈴は為す術もなく胃の中のものをバケツへと流し込んでいった……。
おぇぇえええ
テスト中だから全然更新できないおぇぇえええ