腐れハゲジジイ
『お、聞こえておるのか』
ジジイは安心した顔をした。銅像なのにだ。
「き、聞こえてますけど……? 」
俺はとりあえずそう返した。
夢か、これは夢なのか。頬をつねる。定番。
「痛えっ」
『はっはっはっ、夢ではないぞ』
「動いてる銅像なんて信じられるか!!」
思わず言ってしまった。でも普通に信じられんのは事実だ。
『初代校長に対して口が悪いのう……近頃の生徒はみんな不良じゃ』
銅像ジジイはまた困った顔になる。もういいよ。
他のみんなはどんな反応してんのかな……。
部長は懐中電灯で照らしたまま気味の悪そうな顔で金属じーさんを見ている。
美鈴はかなり怖がっているようで、さっきからずっと俺の後ろに隠れている。怖がっているところも可愛い。惚れてないぞ。
奈々は。
「ちょwww銅像ww銅像がwww動いてwww」
とか訳のわからないことを言いながら地面に頭をガンガンぶつけている!? 奈々が狂ってしまった!!
「待て九条! 落ち着け! 」
部長が慌てて側に行き、奈々を軽々と抱き上げた。なんつー腕力だ……。
「ふぉぉwww……お?」
しばらく狂ったあと、正気に戻ったようだ。
抱き上げたまま部長が奈々に囁いた。
「……良く見ろ。あれは銅で出来ているがただのおじいさんだ。何も驚くことはない」
「なるほど」
部長は奈々が納得したので地面に降ろした。
っていやいやいや。銅で出来てる時点で十分おかしいよね。……まあ、奈々を正気に戻す部長の心遣いなのだろう。
そんな俺たちを微笑ましく見ながら、初代校長(素材銅)が言った。
『はっはっは。わしが動いておるのが見えるとは、お主らはかなりの霊感を持っとるんじゃのう』
「……霊感? 」
そんなもの今まであった覚えないんだけどなぁ。
『そうじゃ。平均的な人間ならば、わしが動いているようには全く見えん。声が微かに聞こえただけでも、相当霊感がある方じゃ』
俺たちどんだけ霊感あるんだよ……。
『普通は幽霊に祟られでもせん限り、そこまでの霊感は持つはずないんじゃが……ん? 』
ブロンズ爺さんがまた俺を見た……んじゃなくて、俺の後ろの美鈴を見た。視線に気がついた美鈴は、「ひゃっ」と声をあげた。
「……なんでしょうか」
それを聞いた銅じーさんは何故か納得したような口調で返した。
『いや、なんでもない』
今のやり取りは何の意味があったのだろうか。このじーさんロリコン?
『ところでお主ら、オカルト研究部とやらの取材なんじゃろう? 』
「……そうですけど? 」
『はっはっ、やっぱりか。何年か前にも同じような輩が来たわい』
多分それが俺たちが見たブログを書いた卒業生なんだろう。
『なら、彼らと同じことをしてみんか? 』
「同じこととは? 」
ブロンズハゲ校長先生は、そのつるつるの頭を指差して言った。
『わしの記憶を遡り、わしの代わりに未練を果たしてほしい。……現代の言葉で言うなら、たいむすりっぷというやつじゃな』
「タイムスリップ……? 」
「馬鹿げたことを」
部長が強い口調で言った。銅像が動くという怪奇現象に出会っても、タイムスリップは全否定らしい。
俺も信じられない。でも、ここまで来るとタイムスリップも信じたくなってしまった。好奇心というものだろうか。
『馬鹿げているかどうかは、実際に楽しんでもらってから判断してもらおうかのう』
ただ錆びた銅の塊がどうしてこんな人の良さそうな笑みを作れるんだ。そんなことを考えてしまう。
「ところで、未練とか言ってるけど爺さん幽霊なの? 」
と、さっきから気になっていたことを俺は尋ねた。
『幽霊じゃな。霊力が保たんから今は銅像に憑依しておる』
なんかこの爺さんの言葉厨二病に聞こえてくるよ……。
「おじーちゃんおもしろいね! 」
不意に奈々が言った。そして銅像の方に駆けてから俺たちに向き直り、
「タイムスリップ、してみようよ! 」
と満面の笑みで言った。
「元から俺はするつもりだ」
「部活動だからな。もちろんだ」
あれ、部長意外とやる気なんだ。
「み、みんなが行くのなら……わたしも行こうかな」
嫌と言っても俺が引っ張って行くけどな。
「というわけで校長先生、全員意見が一致してるみたいだ」
『はっはっ、若い奴らはそう来ないと行かん』
俺たちの答えを聞いた銅像校長先生は、長い髭を撫でながらそう言った。
伏線は至るところに作るつもりです。