記憶の穴
俺が死にかけたあれからさらに数分。俺たちは校長室にお呼ばれしていた。怒られるわけではない。
御察しの通り、今目の前にいるしかめっ面のおっさんは若き日の校長先生である。中年だけど。
部長が間接的に俺を殺しかけた件は全て水に流してもらい(俺は流して欲しくない)、とりあえずお手伝いをさせて頂きたいという部長の半ば強制的な申し出により、俺たちはこの学校でお仕事をすることが決まった。
「手伝いって言ってものう……。宿舎の方の掃除やらなんやらは全部女房がやってくれてるから別にやってほしいことなんてないんじゃが……。」
ピカピカの革張りの椅子に座り髭を撫でるおっさんは、見れば見るほどあの銅像じーさんの面影を感じる。
「とりあえず、日が暮れるまで子供達を見てくれんかのう。わしゃちょっと用事があってな」
「わかりました」
部長、即答。ガキの面倒見るとか嫌だよ〜。
はぁっ、とため息。
「何か文句あるのか? 」
ギロリ。すっごい目で睨まれた。
「ないですまじないです」
この人の前でため息なんかついたらダメだな、次は撃たれる。
結局三階建ての宿舎を四人で見回ることに。校長の奥さんは夕食の準備をするらしい。綺麗な人だったよ。クソ、リア充め。
俺は美鈴と二人で二階の廊下を歩いていた。
ドッドッという木造独特の足音がとても新鮮だ。部屋から聞こえる子供達の声はうるさいが、何故か不快じゃない。
「……なんか、小学校の頃を思い出すね」
隣を歩く美鈴が、不意にそんなことを言った。
小学校の頃か。あの頃は……あれ。なんでだろう。全く記憶が無い。おかしいな……。
「そ、そうだな……」
「やっぱり覚えてない? 」
「……ごめん」
やっぱり……? なんでわかったんだ。なんでお前はそんな悲しい笑顔になれるんだ。
「お前は覚えているのか? 」
「もちろん」
満面の笑みだ。でもどこか寂しそうだ。
「その記憶には……俺はいる? 」
「もちろんろん」
なにそれ。
「なんでも知ってるよ。だって——幼馴染なんだから」
「そうだな、幼馴染だもんな 」
とっても不思議だけど、今はそんなことどうでもいいと思った。
「おねーちゃん、あそぼー! 」
女の子達に呼ばれた美鈴は「いいよ〜」と言って部屋の中に入っていく。俺にごめんねといった感じで目配せをしてきたので、俺は構わないと目で返した。
部屋の中で楽しそうに遊ぶ女の子と美鈴。校長先生、あなたはやっぱりいいことをしたと思いますよ。
時刻が夕方になろうとしていた時に、俺たちは再び校長先生にお呼ばれされた。
なんでも、女の子を捜索してほしいと言う。
つまり、俺たちは本格的に校長先生の未練を晴らす手伝いをするというわけだ。
絶対に見つけ出して、校長先生を安心して成仏させてやろう。
戦後の下町を、俺たち四人は歩く。
「これが六十年以上前の俺たちの町なんだよなぁ」
「信じられないよねぇー」
「つべこべ言わず捜索に集中しろ。細い道は要注意だ。人の少ない路地裏に繋がっていそうだからな。人見つけたら直ちに報告しろ」
あなたは戦術指揮官かなんかですか。真面目だなぁ。俺らだって真面目じゃないわけがないんだけど、この人はちょっと違う。
「細い道、細い道っと……お」
早速見つけた。俺ってば仕事してるぅ〜。
「部長、見つけましたよ」
「でかしたぞ屑野郎」
「やめてください」
もうちょっと褒めてる感じ出してくださいよ!!
薄暗い道に俺たちは入っていく。
すぐ隣が建物だからなのか、足音はザッザッとよく響く。
「それにしても、本当に暗いよなぁ」
「怖いねぇー」
「……」
美鈴が俺の制服の裾をギュッと掴む。またお前はそんなベタな可愛い仕草を……。惚れてないぞ。
先頭を歩く部長が言う。
「あそこを曲がるぞ」
よく見ると、路地裏に繋がってそうな角がある。
角を曲がると、左右が洗濯物に囲まれた路地裏に出た。本当にさっきから眼に映るもの何もかもが新鮮だ。
そしてその道の先に、ぽつりと一人少女が立っていた。
「あれは……」
そういや容姿とか聞いてなかったな。でも、高確率でこの少女だろうと皆見当がついただろう。
まず身なり。戦後一年程だろうこの時代に、親がいる子がこんな格好をしているものだろうか。そんな感じに思える格好だ。
そして、すぐに痩せこけているとわかる体型。絶対ろくなものを食べてない。
「救って、あげなくちゃ……」
この少女が例の子であろうがなかろうが、俺はこの子を放って置けない。
俺は路地裏を進み始めた。
テストやばい死んだやばい(´・_ゝ・`)
泣いてないぞ。(決め台詞




