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翌日、カンナは王宮へ呼ばれた。

陛下の執務室には、陛下と兄と宰相がいた。


「本当に界渡りを行うのか?」


陛下はカンナを見据えて、聞いた。


「はい。何があっても後悔はいたしません。」


「分かった…。では、詳細を。」


陛下に促されて、アレックスが界渡りの手順を話し始めた。


「はい、私から説明します。異界への門を開けられるのは2回。間隔は24時間です。1回目と2回目の間、私達2人はあちらの世界への道を繋ぎ止めます。」


「…つまり、1回目に異界への門を開いて聖女を呼び出す。24時間でジークが聖女を説得できなければ、24時間後に2回目の門を開いて、聖女をあちらへ還すということか?」


「聖女様がこちらに永住すると決められれば、2回目の門を開く必要はなくなります。逆にジーク様があちらへ永住すると決められれば、ジーク様と聖女のお二人をあちらへ渡すことになるかもしれません。そのあたりは、24時間でお二人が決めること。」


「お待ち下さい!!界渡りとは何ですか!?我が愚息と聖女様がどう関係するのですか!?」


会話についていけない宰相が驚いて口を開いた。


「その名のとおり、異界への門を開ける術です。陛下は既にご存知ですが、我らラークスター家には界渡りの力を持つ者が生まれます。界渡りの力を持つ者がその力を使うか死ぬかすれば、力を失ったとみなされ次代に継承されます。今代はカンナがその力を持っています。」


「…っ!馬鹿な。そんなこと認められるわけないであろう。そもそも、100年に一度しか門は開かないのではなかったのか?」


「100年周期で、聖女の界と我らの界が近づくので、最も門を開きやすいと言われているだけです。」


陛下は呆然とする宰相を尻目に、界渡りに関する質問が続けた。


「異界渡りを使うと力を失うのか…。過去に例はあるのか?」


「1500年前の聖女を召還した際の実績があります。詳細な経緯は不明ですが、界渡りの力を持つ者が聖女を召還して、24時間後に門を開き、あちらへ還したと文献に残っています。…正直に申しまして、私は反対です。こんな個人的な理由で、門を開くなど……前代未聞です。」


しばらく誰も口を開けず、沈黙が続いた。


「…門を開くことの弊害はあるのか?」


探るような視線でアレックスを見ながら、陛下が尋ねた。


「呼ばれたもの、呼んだもの以外の行き来は不可能です。生態系への影響等も無いとされています。また、当家からこの力が失われることも無いと思われます。ただ……。」


言いよどんだアレックスの深い森のような翠の瞳は不安で揺れている。


「ただ?何だ?」


「ただ…、異界渡りには莫大な魔力が必要になるとされています。よって対価として魔力を失います。それだけではなく、下手をすれば命も残りません。」


何度も読み返した文献に書かれていたうち、答えられる範囲で答えた。

1500年前に王家の命で聖女を召還しあちらへ還した先祖は、その場で右半身が吹き飛んで絶命した。

いくらカンナが近年稀に見る魔力の持ち主で、本人のたっての願いだとしてもやめさせたい。

妹を蔑ろにし続けている公爵家のお坊ちゃんのために、命を懸けるなんて、馬鹿馬鹿しい。


「絶対に、なりません。カンナ、やめるのです。あなたがそんな危険を冒す必要はありません!」


そんなつもりでジークとカンナを結婚させたわけではないと、蒼白になった宰相が、慌てて止めに入るが、カンナの決意は固かった。


「異界渡りの術は術者と召還者が血の契約をしていないと発動しないのです。

血の契約とは互いの血を交換しているもののこと指します。

…つまり、結婚式で呪を唱えながら互いの血を混ぜたワインを飲む儀式をした私とジーク様にしか発動させられません。

義父上様、公爵家の名を汚すような結果には決してなりません。ジーク様には幸せであってほしいのです。

何より、この力は20歳までしか使えないのです。…どうか、お許し下さい。」


カンナは1ヶ月後に20歳になる。


「そもそも、ジークは本当にそれを望んでいるのですか?あなたを犠牲にしてでも聖女を娶りたいと言ったのですか?」


宰相の問いかけにしばらく沈黙していたカンナは、悲しそうに微笑んで、ジークの聖女に対する想いを告げた。


「聖女様への気持ちは変わらないとジーク様ご本人からお聞きしました。それに…私では聖女様の代わりは勤まらないとはっきり告げられましたから。」


愚息のあんまりな言葉に、宰相は絶句した。


「もうよい。カンナ、後悔しないのだな?」


「はい。」


「アレックス。ラークスター家もそれでよいのだな?」


「…はい。」


「では、1週間後に界渡りを執り行う。他にこの場で話しておくべきことはないか?」


陛下の問いかけに、カンナが答えた。


「恐れながら…この件に私が関わっていることは、ジーク様には秘密にしていて下さい。お願いいたします。」


「良かろう。宰相も、それでよいな。」


「…はい。」


宰相は消え入りそうな返事をやっと返した。











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