第五話:真の勇者は、愛と共に覚醒する
ヒロが十六歳の成人を迎える日。
村の中央にある水晶の前で、ヒロは困惑した表情を浮かべていた。
十年前の儀式と同じだ。水晶にはノイズのような、読み取れない「文字化け」が表示されている。
「またか……。やっぱり、僕には何の才能もないんだね」
肩を落とすヒロ。周囲の村人たちからも「期待外れの兄弟だ」と冷ややかな視線が突き刺さる。
だが、カズヤの眼(処世術Lv.99)には、全く別の光景が見えていた。
【処世術:解析完了】
【対象:ヒロ・サトウ】
【真のスキル:愛 Lv.99】
【警告:この力は現体系の神との完全な競合状態にあります。即刻、秘匿してください】
(……「愛」、だと? この、神に見捨てられた地獄のような世界で、最もありえないスキルじゃねえか)
カズヤは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
このスキルは、次代の神の座を約束するもの。つまり、今の神にとっては「自分を消し去る猛毒」に他ならない。
「ヒロ、動くな。そのままの顔でいろ」
カズヤは瞬時に弟のそばに寄り、処世術の派生技「忖度(偽装)」を発動させた。
水晶の文字化けを「ただのバグ」として周囲に認識させ、野次馬たちの関心を逸らす。
その夜。カズヤはヒロを自宅の裏手に呼び出した。
「いいか、ヒロ。お前のスキルは『文字化け』じゃない。『愛』だ。それも、この世界を塗り替えるレベルのな」
「えっ……愛? でも、そんなの戦いには使えないよ」
「ああ、今のままじゃな。だがな、ヒロ。お前が真の勇者として覚醒し、世界を救うには……今の神を玉座から引きずり落とす必要がある。そのためには、魔王が持っている『理の書』が必要だ」
「魔王を……倒すの? 僕が?」
「そうだ。魔王は神の半身。魔王が消えれば神も消える。その瞬間に、お前の『愛』で世界のルールを書き換える。それが、俺たちが目指す『グランドフィナーレ』だ」
カズヤはヒロの肩を強く掴んだ。
「これから王都へ行く。そこには神の息がかかった『偽物の勇者』や、私利私欲にまみれた『聖職者』がうじゃうじゃいる。お前の正体がバレれば、即、消されるだろう」
「怖いよ、兄ちゃん……」
「怖がるな。汚れ仕事、根回し、武力の調達、そして神に代わる『新しい信仰』の土台作り……。面倒なことは全部、この処世術で俺がやってやる」
カズヤの瞳に、かつての社畜時代にはなかった鋭い光が宿る。
自分を殺したあの幼女、そして人類を見捨てた傲慢な神。
彼らに報復する唯一の方法は、彼らが「失敗作」と呼んだ人類の中から、新たな神を誕生させることだ。
「まずは王都で、俺たちの『派閥』を作る。女神(あの幼女)の本当の源である『真の信仰心』を持つ連中をかき集めるぞ」
こうして、史上最強の「処世術」を持つ兄と、史上最も純粋な「愛」を持つ弟の、世界への反逆が始まった。




