第三話:忖度と根回し、時々「粛清」
カズヤが15歳(成人)を過ぎ、いよいよその「処世術」が牙を剥くエピソードですね。
タイトルからして悪意の塊のような領主に対し、カズヤがどう立ち回るのか。
儀式から十年。
俺は十六歳になり、見た目はどこにでもいる平凡な村の青年へと成長した。
だが、中身は「三十年の社畜経験」と「スキル:処世術Lv.99」を併せ持つ、この世界で最も敵に回してはいけない男だ。
俺たちの住む土地の領主、ヤナ・ヤーツ。
名前からして不吉なその男は、神に愛想を尽かされた人類の「醜さ」を煮凝りにしたような奴だった。
「来月の税は収穫の八割だ。出せぬなら娘を差し出せ」
そんな理不尽を吐き捨てながら、肥え太った体で村を練り歩く。
そんなヤナが、俺の幼馴染、ユカに目をつけた。
「カズヤ……。私、領主様の館に連れていかれちゃう……。お父さんたちを人質に取られて、断れないの……」
村の広場で、ユカが泣きじゃくりながら俺に縋り付く。
彼女はこの村の良心とも言える、太陽のように明るく可愛い少女だ。
「……安心しろ、ユカ。お前の人生に『バグ』は発生させない」
俺は静かに、スキルを発動させた。
【処世術:Lv.99――「根回し」及び「心理把握」発動】
視界にヤナ・ヤーツの「欲望チャート」が浮かび上がる。
金、女、食欲、そして何より「上位存在への異常なまでの媚び」。
「さて……営業の時間だ」
その夜。俺は単身、領主の館に忍び込んだ……のではない。
正面から堂々と、「特産品の新提案」という名目で、門番に適切な額のワイロ(処世術:適切なチップ配分)を渡し、ヤナの私室へと通じさせた。
「なんだ、貴様は。ユカの代わりに来たというなら、命はないぞ」
ヤナが酒杯を片手に睨みつけてくる。
「いえいえ、領主様。私はただの平民。しかし、領主様が今、『王都の監査官』への贈り物に困っていると聞き及んで参りました」
「なっ……なぜそれを!?」
ヤナが椅子から転げ落ちる。
これこそが処世術。噂話の端々から、彼が公金を横領しており、近々来る監査に怯えていることを突き止めていた。
「この村の小麦を八割も奪えば、村人は飢え死にします。そうなれば監査官は『統治能力なし』と判断するでしょう。ですが……」
俺は懐から、偽造……もとい、「演出」された帳簿を取り出した。
「ここに、村で秘密裏に開発された『新型酒』の独占販売権があります。これを監査官に差し出せば、横領の穴埋めどころか、王都への出世すら叶うでしょう。但し、条件は二つ」
俺は、前世でクレーマーを黙らせてきた「冷徹な営業スマイル」を浮かべた。
「ユカとの婚約を白紙に戻すこと。そして、今年の税を三割に減免することです。さもなければ……」
俺は指をパチンと鳴らす。
「私がこの十年間で積み上げた、領主様の『公私混同リスト』が、明日には王都の広場に張り出されます。……もちろん、誰が張ったか絶対にバレないように『根回し』済みですよ?」
ヤナの顔から血の気が引いた。
「き、貴様……ただの平民ではないな……!?」
「いいえ。私は、『うまくやっていきたい』だけの、ただの社畜ですよ」
翌朝。
領主ヤナ・ヤーツは「心変わり」したと宣言した。
税は大幅に減免され、ユカへの縁談も「私の不徳の致すところ」として撤回された。
村中が歓喜に沸く中、ユカが俺のところに駆け寄ってくる。
「カズヤ! すごい、奇跡が起きたよ!」
「ああ、良かったな。神様もたまには粋なことをするらしい」
俺は、空を見上げて鼻で笑った。
神様? 違うな。これは俺たちの力だ。
人類を見限った神が、絶望に沈む様子を上から眺めているというのなら――。
(見てろよ。お前が作った『不条理』という名の仕様、俺が全部書き換えてやるからな)




