エピローグ 〜満開〜 ハルルートへの桜坂
はじめまして、作者のしぃ太郎です。
このお話は、
「前世の彼氏が攻略対象に転生してた」という
なんとも言えない状況から始まります。
軽い雰囲気で始まりますが、
キャラ達の感情はわりと重めだったり、
甘いところは作者が照れるくらい甘かったりします。
シリアスもありますが、最終的にはハッピーエンドです。
安心して読んでいただけたら嬉しいです。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
――ただの噂話のように語られる、小さな後日談。
王子の素行に関する告発はすべて国王の耳に届いたらしい。
証拠は揃いすぎていて、握りつぶすことすらできず、王子は“無期限の謹慎”を命じられ、側近たちは爵位を剥奪されて王都追放となったという。
被害者には補償金が支払われ、平民でも声を上げられるようにと、学園には新たに監査役が置かれたらしい。
エルリックの侍従が部屋に入ってきて、空になったカップにまた紅茶を注いでくれる。
男性の影が動くだけで、身体が強張る。
いつもの普通の動作、その姿さえも、今の私には怖く思えてしまう。
それに気づいたエルリックがそっと私の手を握ってくれる。その、彼の温もりに緊張していた身体が解れていく。
もう。本当に狡いよ。何でここまで私のことをわかってくれるの?
「それで、あれはイベントの一種だったの?私が襲われるような?」
「ああ……。そんなものだ」
落ち着いたエルリックは、何処か肩の荷が下りたようにスッキリとした顔をしていた。
エルリックは私の見えない所で色々と頑張ってくれていたらしい。
王子の婚約者であるエルバドル公爵令嬢も協力してくれたと聞いて少し驚いた。
「じゃあ、これで乙女ゲーは終わったのかしら」
「わからないな。でも、なぁミリィ」
真剣な瞳が私を刺す。
「貴族の男の怖さがわかっただろう?もう、良いじゃないか。有名な学者だってお前に付けて教育を受けさせるよ。学歴が必要なら、それもどうにかしてみせる」
――懇願するように。私に話しかけてくる彼。
「俺はもう、危ない目に遭うミリィを見たくないんだ。お願いだから。俺の事が嫌いでも構わないから。それなりに金を持って権力もある男なんだから上手く利用した方がお得だろ?」
彼は前世の事がトラウマになっているのかもしれない。
それにまだ、私が知らない事が他にもあるのかもしれない。
「バカ。前に、春樹の涙を思い出したって言ったでしょ。それに、エルリックの涙も見ちゃったわ。こんなに私を思ってくれている人を利用するわけないじゃない」
そう言って、彼の金色の瞳を見つめた。
見た目が変わっても私の大好きな人だった。
そして、生まれ変わった私をこんなに大切にしてくれる人だった。
「前世は一緒に誕生日を祝えなかったし、春樹とやり残したことがいっぱいあるのよ。エルリックとそれを叶えてもいいかな?」
――身分の違いもある。
でも、彼は何とかしてくれるんだろう。
それに、次男だって言っていたし。
きっと私の知らない所でまた頑張ってくれる。そこが少し心苦しいけれど。
私もやっぱりエルリック以外の男性が怖くなってしまった。学園なんてどうでもいいと思える程に。
普通の男性の使用人をみるだけでも不安で、本能的にエルリックを探してしまう。今だってそうだ。本当なら、ずっと彼の影に隠れていたい。
「俺も、優花とやりたい事、やり残した事、してあげたい事、一緒に叶えたい事、沢山あるんだ。ミリィがそれを一緒に叶えてくれるのか?」
――答えは決まっている。
「勿論!それにね、エルリックともう一度ここから始めたい」
「うん。俺も、ミリィの事をもっと知っていきたい」
「まずは誕生日も知らないし、今の趣味も好みも知らない。デートもしたことがないでしょう?」
「ああ。やっぱり昔とは変わった事も多いよな。俺も、ミリィが大切だから……。こんな世界で、目を離したくないんだ」
そう言って彼は私の目元にキスをした。
それでもエルリックの震えは止まらなくて。
「怖かった……。また失うと思って。俺は……また間に合わないかもしれないって凄く怖かったんだよ」
つられるように、私にも恐怖が押し寄せてきてしまって。
彼の本当の痛みの全てを理解出来ていないかもしれない。
平和だった世界で生きてきた私たちには、あまりにも、この世界の階級制度が残酷で馴染めない。
私の命は、ここではあまりにも軽い。
でも、エルリックがいるだけで私は救われるんだ――。
私の存在も、貴方にとっての救いになってくれたら嬉しい。
彼を私を抱きしめて頭を撫で続けた。
あまりにも心地がいい。この場所から、エルリックから離れることなんて出来そうにない。
「結局、私は『ハル』ルートをずっと目指して、これでハッピーエンドなんだよね?」
「うん。まだまだエンドは遠いけれど、ミリィの選択を絶対に後悔させないよ」
エルリックの金色に煌めく瞳に私の姿が映っている。
ある意味、運命的に出会った二人ぼっちの私たち。
こんなの、狡いよね。最初からエルリックしか、『ハル』しか選択しないよ。
「ねぇ、ミリィ。あの時さ……、”優花”への誕生日プレゼントを渡せなかったよな?」
「うん。そういえば、せっかく誕生日にデートの約束してたのにね」
彼はスッと立ち上がると、側にある机の方へ歩いて行った。
この短い時間でも、彼の体温を感じていないと不安になってしまった。つくづく、私の心は弱いみたい。
「これ。”春樹”が用意していたのは、バイトで貯めたテーマパークのチケットとちょっとした小物だったけど。でも、今の”エルリック”としての俺は、これをミリィに贈りたい」
エルリックが丁寧に私の手に乗せてくれたのは、小さな小箱だった。
『春』を告げると云われる鳥と、小さな花の意匠が繊細に刻み込まれたその箱は――。
「オルゴール?」
「うん。世界に一つだけの音楽が入っているよ」
その蓋を開けてみると、日本語で『優しくて大切な俺だけの花へ』と書かれている。
流れてくるメロディは、前世で馴染みのある曲だった。誰もが聴いたことのある有名な音楽。
「……ん? ねぇ、ここ、ちょっと音程外れてない? 微妙に所々に変な箇所があるんだけど……」
「え?気づいた?だから言ったじゃん。いつも、優花は『音痴だよね』って!」
「……!! 酷すぎる!ここまで音を外してないはずだもん!」
怒った振りをして、彼に正面から向き合うと、思わず息を呑むほど優しい瞳で笑っているエルリックだった。
「狡いよね、攻略対象?の破壊力がある顔って」
――私がそう言った後の彼の笑顔は……。
本当に、木漏れ日のように私を包み込む、そんな表情だった。
◇◇◇
――「ハル」に咲く“優しい花”は、きっと美しくて、
色んな情景を映し出すんだろう。
それを、これからは二人で並んで見ていこう。
ね? ……エルリック。
エピローグまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
ミリィとエルリックの長い長い物語は、ここでひとつの区切りを迎えました。
前世の誤解と後悔、何度も繰り返されたバッドエンド、
それでも諦めずに「もう一度だけ君を救いたい」と願い続けたエルリック。
そして、自分の痛みに蓋をしながらも、彼の想いに向き合ったミリィ。
二人がようやくたどり着いたこのハッピーエンドは、
読んでくださった皆さまのおかげで形になった物語です。
ここまで一緒に歩んでいただき、本当に、本当にありがとうございました。
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また別の作品でも、二人のような「大切にしたい恋」を描けたら嬉しいです。
それでは──また次の物語でお会いできますように。




