第4話 〜五分咲き〜 あの日、散った花の名前は(エルリック視点)
はじめまして、作者のしぃ太郎です。
このお話は、
「前世の彼氏が攻略対象に転生してた」という
なんとも言えない状況から始まります。
軽い雰囲気で始まりますが、
キャラ達の感情はわりと重めだったり、
甘いところは作者が照れるくらい甘かったりします。
シリアスもありますが、最終的にはハッピーエンドです。
安心して読んでいただけたら嬉しいです。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
――(過去編 “ 一回目のエルリック”の回想)――
前世の記憶を思い出したのは、学園に入学する直前だった。
朝起きた瞬間、知らない天蓋を見あげていた。
そして、鏡に写った馴染みのない顔。
そこには“俺”とは違う青年がいた。
状況を受け入れるのに時間がかかり、両親に心配された。
医者にみせられたり、神官を呼ばたりもした。
(これって転生とか憑依とか、そういう感じ?)
現状は理解したが、つい先程、大切な彼女を失った喪失感だけはどうしようもない。
遠い過去の出来事のはずなのに、手が震えて止まらなかった。
――学園の入学式。
門をくぐると、前世で流行った曲を口ずさむ女の子がいた。
懐かしい。
そして、優花と同じように音程を外す所が失った彼女を思い起こさせた。
――もしかしたら、優花なのかもしれない。
無意識に、呼吸が浅くなる。
顔が違う。
それでも彼女だと思った。元気に、楽しそうに歩いている。……そして幸せそうだ。
そう考えたら泣きたくなった。
今、彼女が幸せなら俺は必要ないんじゃないか?
前世、あの女の本性に気がつかず、目の前で死なせてしまった――俺の優花。
俺には、優花を幸せにする資格なんてないんじゃないか?
――でも。
もし恋人に選ばれなくても、友人ならいいんじゃないか?
そう思い、彼女に声をかけた。
「君も新入生だよね?名前を聞いてもいいかな?あ、俺はエルリック・レリアント。気軽にエルリックって呼んでほしい」
緊張を必死に隠して。目に力を入れて、涙なんて見せないように。
「はじめまして、レリアント様。私はミリィです。平民なので苗字はありません。でも、ここは平民の生徒は少ないんですね。私に関わらないほうが貴方の為になるかもしれません」
挨拶を交わしながら、貴族とは関わりたくないと暗に匂わせる彼女。
それもそうかもしれない。
貴族は平民を同じ人間だと思っていない。陰ながら彼女を助けるほうがいいのかもしれない。
「そうなんだ。俺は気にしないけれど、ミリィさんが気にすると困るからね。これ以上は干渉しないよ。でも何かあったら頼る程度には覚えていて欲しい」
「ありがとうございます、レリアント様!」
(あぁ、優花だ。俺が優花を間違える筈がない)
彼女の笑顔をもう一度見られた。
これ以上は彼女の負担になるなら……身を引くしか無いのだろう。
――生きていてくれるだけでいいじゃないか。
それだけでもいいじゃないか……。
――ある日。
「あの平民、とうとう王子の特別室に呼ばれたってさ」
それを聞いたのは、入学後半年を過ぎた頃だった。
あの王子は色事に耽り、こうやって立場の弱い女性や身分の低い男を甚振るのが好きだ。
彼と関わった何人もの生徒が突然退学になり、その理由を誰も語らない。
「その子の名前は!?」
今、それを話題に出していた男の襟元を掴み上げ問い詰める。
「知らねぇよ!何だいきなり!って、レリアント子息!?」
「名前以外でもいいから!何か情報は!」
「確かピンクに近い金髪の平民です!名前は覚えてません、すみません!」
――それは。それはミリィじゃないのか。
廊下を走る。あの野郎、あの王子!ぶっ殺してやる!
間に合え!
早く!もっと速く走れ!
部屋を守る護衛を殴り倒し、部屋に押し入る。
そして辿り着いた王子の特別室。そこで見た物は。
前世で感じたあの、――あの殺意を思い起こさせた。
ミリィはグッタリとソファに横たわり――。
王子と側近の二人が彼女に伸し掛かっていた。
彼女の肌が露わになっており、何があったかは明らかだった。
前世の記憶が脳を灼いた。
「てめーら!!ぶっ殺してやる!」
さっき殴り倒した護衛から剣を奪い、
何度も。
何度も。
奴らを滅多刺しにする。
まただ!また助けられなかった!
呼吸が浅くなる。上手く息が出来ない。
視界がどんどんと狭まっていく。
――ミリィの命、それ自体が無事なのかすら確認すら出来ない。
あまりにも酷い惨状で。俺にはその姿を見ていられない。
本当なら、彼女に寄り添って心を癒してあげるのが正しいのだろう。
でも、このままではミリィの痛みも、彼女がされた行為も無かったことにされる。
彼女は力の無い平民だから。
――それがこの社会だ。
剣を振りながら、思う。
逃げる奴らを串刺しにしながら強く、あの日を思い出す。
入学式の日。
彼女が幸せならいいと思った。
彼女が生きているだけでもいいと思った。
――何を馬鹿げたことを!
違う!違う!
こんな奴らから守らなければ!!そうしなければいけなかったんだ!!
◇◇◇
俺は捕まり、王城の地下牢に入れられた。
無力感に苛まれて、顔を上げることさえ出来なかった。
じっと牢獄の冷たい石畳を見ていた。
「なんでこんな事をしたんだ!王族を弑するなんて!我が一族も責任は免れん!この恥知らずが」
父に殴られ、母には泣かれ。我が家門も大打撃だった。
それでも、俺はミリィの事しか頭になかった。
そしてあの惨劇で、王子のしていた事が次々と明るみに出たらしい。
随分と卑劣なことを沢山していたようだ。
情状酌量が与えられ、俺一人が毒杯を賜るだけで済んだ。
――そしてミリィは。
心を病み、部屋に閉じこもったある日、ふと命を絶ってしまったらしい。
また彼女を失ってしまった。
それなら。もう俺に生きる意味はないじゃないか。
また好きな女を助けられなかった惨めな男がここに居るだけだ。
暗い檻の中。俺は毒杯を一気に呷り、血を吐いて死んだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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