第2話 〜二分咲き〜 王子様ってやつは
――ある日。
断る間もなく、近くにいた側近に進路を塞がれ、そのまま部屋へ案内された。
エルリックを呼びに行く隙すら、与えられなかった。
「先日、裏庭で令嬢たちに囲まれて困っていたと聞いたよ?大丈夫だったかい?」
学園にある特別室。今は王子が使っているその部屋に何故か呼ばれている。
「心配なさらないで大丈夫です。何もありませんでしたよ、それに……」
王子が私の言葉を遮って話し出す。
人の話は聞かないタイプね。面倒だわ。
「あぁ、お茶が冷めてしまうから、先に飲んでくれていい。それに、有名店から取り寄せた女性に人気のお菓子もある」
「……ありがとうございます。頂きます」
怪しすぎる。
普通は女生徒一人を部屋に入れたりしないはずだ。
仮にも彼は王族だ。
「うん。遠慮しないでどうぞ?」
やっぱり、エルリックの言う通りヤバい人なのかもしれない。目が――笑ってない。そう感じた。
決定的に、本能が逃げろと告げている。
(飲みたくないし、食べたくない)
――が、許される立場でも無い。
平民か。前世を思い出してからその理不尽さにショックを受けた。
貴族に何をされても仕方がないこの世界。
この密室で何かが起きても、私は泣き寝入りして言いなりになるしか無いのだ。
――エルリックは私を尊重してくれたわよね。
私の意思を聞いてくれる。
彼を信じて頼ってみようか。
今さら狡いかもしれないけど、エルリックが応えてくれるなら。
やっぱり彼が私を裏切って平気な顔をしていられるとは思えないのだ。
私の知っている春樹なら。浮気していたのなら、罪悪感を覚えて私に謝るだろう。
あそこまで否定するなら、彼の発言は本当なのでは無いか――。
勧められたお茶を一口ずつ飲みながら、王子の何気ない質問に答え続ける。
――でも、このお茶、なにか……変な味がする気がする。
やけに甘ったるい、香りと味。
これは……思っている以上にまずい事態かもしれない。
そして、何故か身体が熱くなってくる感覚……。
嫌な予感がひしひしと押し寄せる。
これだけ彼の話に付き合ったのだから、もう十分だろう。
失礼にならない範囲で早く立ち去ろうと、辞去の挨拶をしようと声を出した。
「お誘いくださりありがとうございます。でも、そろそろエルリック様が、しんぱ………?」
――何か仕込まれている可能性も考えていたけれど。
ここまで即効性があるなんて……。
視界が揺れて、どんどんと暗くなっていく。
座っていられない……。
目の前で不気味に笑う彼らが、とても恐ろしかった。
話している内容が聞き取れない。
やけに音が遠く聞こえ、地面が揺れる。
ここには男性しか居ない。
エルリックが気をつけろと警告していた三人。
(これは、酷い事になるかも……)
ガチャンとお茶を制服に零し、段々と意識が遠のいていく。
やだ。やだ。なんでこんな世界なの。
平民の立場じゃどうにもならない、残酷な現実だ。
エルリック……助けてよ。
本当はこんな理不尽な世界なんてつらすぎるんだよ。
彼らが近づいてくる気配がするが身体が動かない。
――春樹。エルリック……。
「エルリック……。たす……」
喉から漏れたのは、言葉にすらならない音だった。
どうしようもなく意識が遠のいて、私はそのまま目を閉じた。
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