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第八話 社畜、奇襲に残業対応


──翌日。

ギルドで報酬を受け取ろうとした俺たちを待っていたのは、受付嬢の震える声だった。


「……す、すみません。討伐報酬は……お支払いできないことになりまして……」


「はぁぁぁ!?」

俺は机に両手を叩きつけた。

木製のカウンターがビリッと揺れる。


律が肩をすくめる。

「いやいや、さすがに露骨すぎない?」


ルナが鼻で笑う。

「つまり、昨日の“証拠”の件で、潰す気やろな」


セレナは困ったように両手を胸の前で握りしめ、小声で言った。

「……また、戦わなきゃいけないんですね」


俺は睨みつける。

「そういうことか。だったら──受けて立つ」



その日の夜。

宿を出た瞬間、路地の暗がりからザッと足音。


「直樹。囲まれた」

ルナが冷静に呟く。


冒険者風の男たちが十数人。

全員、ギルドの闇側に雇われてる奴らだ。


「お前らが余計な詮索をするから、こうなったんだよ」

リーダー格の大男が片手に斧を担ぎ、歯を剥いた。


律が小声で俺にささやく。

「ねぇ直樹。僕ら、今すぐ謝って逃げるって手もあるんじゃない?」


「バカ。今さら逃げても“無断退職”で首締められるだけだ」

「うわあ……比喩が完全に社畜」



「来るぞ!!」

俺が叫ぶと同時に、敵が一斉に飛びかかってきた。



最初に前へ出たのはルナ。

「──風よ、盾となれ!」

彼女の足元から風が巻き起こり、四方に結界が展開。

突撃してきた敵の剣が弾かれ、甲高い金属音が響いた。


「た、助かった!」

俺はすかさず木の枝を拾い、地面の石を蹴り飛ばす。

石は敵の足元に転がり、カランッと音を立て──

「うわっ!? くそっ!」

一人が転んだ隙に、枝で喉を突き上げる。


「よっしゃ一人目!!」


律が後ろから手を突き出す。

「“爆裂”──ッ!!」

轟音と共に火花が弾け、路地の石畳が陥没。

数人がまとめて吹っ飛び、地面に転がった。


「律!! 威力ありすぎ!!!」

「ごめん! 僕、調整って苦手で!」



「セレナ、援護だ!」

俺の声に、セレナはぎゅっと唇を噛み、杖を握りしめる。


「……はい! もう暴走はしません!」


彼女の瞳が紅に輝き、魔力が集束。

「──ファイア・ランス!!」


空気が震え、一直線に火の槍が敵へ突き刺さる。

爆炎の柱が上がり、敵の数人が焼き飛ばされた。


「よくやった!」

俺が叫ぶと、セレナは息を切らしながらも笑みを浮かべる。



だが──敵の大男が斧を振りかざして突っ込んできた。

「テメェらごときが、調子に乗るなぁぁ!!!」


「──ッ!」

俺は咄嗟に前へ飛び出し、両腕で枝を構える。


衝撃。

斧と枝がぶつかり──バキィッと音を立てて折れた。


「クソッ……!」

腕に衝撃が走るが、俺は踏ん張った。


その瞬間、脳内に声が響く。


【スキル〈社畜魂〉がレベルアップしました】

【新効果:ストレス耐性Ⅱ(威圧・恐怖無効化)】


「……は?」

目の前の大男の威嚇の咆哮が、妙に静かに聞こえる。

恐怖心が、一切湧かない。


「……悪いな。俺、残業には慣れてんだよ」


俺は折れた枝の破片を逆手に持ち、大男の喉元に突き刺した。

「ぐぉ……!」

大男が崩れ落ちる。



残った敵は、ルナと律の連携で制圧された。

路地に転がるのは、呻き声をあげる男たちだけ。


セレナが震える声で言った。

「……また、人を……殺してしまった」


俺は彼女の肩を掴み、真っ直ぐ目を見る。

「違う。これは守るためだ。お前のせいじゃない」


ルナが横で、ふっと笑う。

「せやな。せやけど……ここから本格的に、敵はうちらを潰しに来るで」


律が青ざめた顔で叫ぶ。

「え、やだよ!? 俺もう労災下りてもいいくらい働いたんだけど!?」


俺は拳を握りしめ、夜空を見上げた。

「いいさ。来るなら来い。ブラックの天井、ぶち破ってやる」


その瞳に、炎のような決意が燃えていた。


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