第七話 社畜、内部調査を始める
ギルド──その奥にある倉庫。
木箱や紙束が乱雑に積まれていて、湿った空気が漂っていた。
「ここに“証拠”があるはずや」
ルナがヒソヒソ声で言い、俺たちはこそこそと中へ侵入。
「まさか俺ら、異世界に来てから仕事が“書類調査”になるとはな……」
俺は眉間を押さえながら、書類を手に取る。
「いやぁ、直樹。まるで監査部だな!」
律が楽しそうに笑う。
「俺は元から経理じゃねぇの! 何で異世界でまで数字と格闘してんだよ!!」
※
ゴソゴソ……バサッ!
「うわっ!」
積み上げられた箱から、何かが落ちてきた。
「ぎゃああああ!! ゴブリンの生首!?!?」
律が腰を抜かして叫ぶ。
「……ちゃうちゃう。干物や」
ルナが冷静に拾い上げて確認。
「なんでそんなもん倉庫にあるの!?」
「おやつやろ」
「誰がこんなん食うんだよ!!!」
※
そのとき──セレナが紙束をめくりながら声をあげた。
「……見てください。これ、“討伐報告書”。同じ依頼が二重に計上されてます!」
俺は受け取って目を走らせる。
「本当だ……同じゴブリン討伐を“別パーティが討伐済み”って水増ししてる……!」
「つまり、冒険者には報酬渡さず、幹部たちが横取り……ってことか」
ルナが眉をひそめる。
「……やっぱり、ブラック通り越して真っ黒やん」
律が口を挟む。
「なぁなぁ直樹。証拠見つけたし、これ提出したら一発で勝てるんじゃない?」
俺は無言で律を睨む。
「……な、なんだよ」
「お前さ……この世界に“労基署”あると思ってんの?」
「えっ……ないの!?」
「あるかアホ!!!」
※
そこへ──ギルド幹部の一人が現れる。
「……お前ら、何を見てる?」
しまった、見つかった!
セレナが反射的に詠唱しかけるが、俺は制止する。
「待て。戦うな。今は……“交渉”だ」
俺はニヤリと笑い、書類を突き出した。
「この証拠、俺たちが隠すか公表するか……選ぶのはアンタだ」
幹部の顔が険しくなる。
「……小僧、命が惜しくねぇのか」
ルナがにやりと笑って、俺の肩に腕を回す。
「惜しいけど、もっと惜しいもんあるやろ?」
「……何だ」
「働き手や。アンタら、労働力を潰しすぎやねん」
「……ッ!」
幹部は何も言えず、舌打ちして去って行った。
※
その夜。宿の一室で──
律がベッドでごろごろしながら笑う。
「なぁ直樹、僕らもう完全に“異世界の社畜組合”だよな」
「いや、それはちょっとカッコ悪くないか?」
「じゃあ“異世界ブラック撲滅部隊”!」
「さらにダサくなったな」
セレナはくすっと微笑みながら、膝の上で本を閉じた。
「でも……私は、こうやって誰かのために動けるのが、少し嬉しいです」
ルナは窓際で夜風に髪をなびかせ、目を細める。
「ほんま、転生者ってやつは……おもろい運命背負ってんな」
俺は天井を見上げ、深く息を吐いた。
「運命なんてどうでもいい。俺はただ──ブラックをぶっ壊すだけだ」