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第七話 社畜、内部調査を始める


ギルド──その奥にある倉庫。

木箱や紙束が乱雑に積まれていて、湿った空気が漂っていた。


「ここに“証拠”があるはずや」

ルナがヒソヒソ声で言い、俺たちはこそこそと中へ侵入。


「まさか俺ら、異世界に来てから仕事が“書類調査”になるとはな……」

俺は眉間を押さえながら、書類を手に取る。


「いやぁ、直樹。まるで監査部だな!」

律が楽しそうに笑う。


「俺は元から経理じゃねぇの! 何で異世界でまで数字と格闘してんだよ!!」



ゴソゴソ……バサッ!


「うわっ!」

積み上げられた箱から、何かが落ちてきた。


「ぎゃああああ!! ゴブリンの生首!?!?」

律が腰を抜かして叫ぶ。


「……ちゃうちゃう。干物や」

ルナが冷静に拾い上げて確認。


「なんでそんなもん倉庫にあるの!?」

「おやつやろ」

「誰がこんなん食うんだよ!!!」



そのとき──セレナが紙束をめくりながら声をあげた。


「……見てください。これ、“討伐報告書”。同じ依頼が二重に計上されてます!」


俺は受け取って目を走らせる。

「本当だ……同じゴブリン討伐を“別パーティが討伐済み”って水増ししてる……!」


「つまり、冒険者には報酬渡さず、幹部たちが横取り……ってことか」

ルナが眉をひそめる。


「……やっぱり、ブラック通り越して真っ黒やん」


律が口を挟む。

「なぁなぁ直樹。証拠見つけたし、これ提出したら一発で勝てるんじゃない?」


俺は無言で律を睨む。


「……な、なんだよ」


「お前さ……この世界に“労基署”あると思ってんの?」


「えっ……ないの!?」


「あるかアホ!!!」



そこへ──ギルド幹部の一人が現れる。

「……お前ら、何を見てる?」


しまった、見つかった!


セレナが反射的に詠唱しかけるが、俺は制止する。

「待て。戦うな。今は……“交渉”だ」


俺はニヤリと笑い、書類を突き出した。

「この証拠、俺たちが隠すか公表するか……選ぶのはアンタだ」


幹部の顔が険しくなる。

「……小僧、命が惜しくねぇのか」


ルナがにやりと笑って、俺の肩に腕を回す。

「惜しいけど、もっと惜しいもんあるやろ?」


「……何だ」


「働き手や。アンタら、労働力を潰しすぎやねん」


「……ッ!」


幹部は何も言えず、舌打ちして去って行った。



その夜。宿の一室で──


律がベッドでごろごろしながら笑う。

「なぁ直樹、僕らもう完全に“異世界の社畜組合”だよな」


「いや、それはちょっとカッコ悪くないか?」

「じゃあ“異世界ブラック撲滅部隊”!」

「さらにダサくなったな」


セレナはくすっと微笑みながら、膝の上で本を閉じた。

「でも……私は、こうやって誰かのために動けるのが、少し嬉しいです」


ルナは窓際で夜風に髪をなびかせ、目を細める。

「ほんま、転生者ってやつは……おもろい運命背負ってんな」


俺は天井を見上げ、深く息を吐いた。

「運命なんてどうでもいい。俺はただ──ブラックをぶっ壊すだけだ」


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