第六話 社畜、改善案を提出する
──ギルドの片隅、薄暗い会議室。
机の上には山積みの報告書と未処理の依頼票。
俺はその中で、腕を組んで深くため息をついていた。
「……で、この書類の山、何日分だ?」
受付嬢が死んだ魚のような目で答える。
「えっと……今月分です。先月分も……物置に……」
律が机に手を置き、にやっと笑う。
「おー、直樹の好きそうな地獄案件だな!」
「お前、俺の性癖をブラック企業仕様にすんな」
ルナは壁にもたれて、面白そうに俺を見ている。
「ほら、あんたの“社畜魂”見せどころやん?」
「やるしかねぇだろ……!」
──ガタンッ!
椅子を引き寄せ、机に座り、俺は書類を仕分け始める。
※
【社畜魂・発動】
・依頼票を重要度別に自動色分け
・期限切れ依頼の破棄提案
・人員配置シミュレーション
「……なんで色がついてるの?」
セレナがきょとんと尋ねる。
「視覚的に優先度がわかるようにだ。赤は緊急、黄色は要確認、青は定期業務」
「なんかギルドじゃなくて事務所みたい……」
「言うな、それが一番刺さる」
律は暇そうに足をぶらぶらさせながら、
「じゃ、僕はお菓子買ってくるわ」と出て行こうとした。
「お前も働け! “仲間”だろ!?」
「僕、仲間ってポジションだから! 作業員じゃないから!」
※
──午後。
依頼掲示板前で、俺は提案書をギルド幹部に叩きつけた。
「これ、なんだ?」
「改善案。依頼管理を効率化して、報酬ピンハネを半分に減らせる仕組みだ」
幹部が鼻で笑う。
「……誰がそんなもんやるかよ。俺らが損するだろうが」
「損? 違ぇな、将来の利益だ」
ルナが後ろから、わざと大きな声で煽る。
「まぁ、目先の小銭のために人材潰すアホもおるけどな」
幹部の目が細くなり、空気がぴりっと張り詰めた。
「……テメェ、潰されてぇのか?」
セレナがすっと前に出る。
その翠眼が一瞬、獣のように鋭く光った。
「直樹さんは……間違ったことを言ってません」
幹部は一瞬たじろぐが、
「……覚えとけよ」と吐き捨てて去っていった。
※
──その日の夜、宿の一室。
律がベッドに寝転びながら、呑気に言う。
「なぁ直樹、明日の依頼どうする? またゴブリン?」
「いや……もうちょっと金になるやつがいいな。ピンハネあっても残るくらいの」
セレナは膝を抱え、少し俯きながら呟く。
「……私、もっと強くなりたいです。あの日みたいに、守れなかった後悔はもう嫌だから」
ルナは窓際で月を見上げ、ニヤリと笑った。
「おもろいなぁ、あんたら。転生者って、ほんま運命に振り回される生き物やわ」
「運命ねぇ……」
俺は天井を見上げ、拳を握った。
「じゃあ、振り回されるんじゃなくて……振り回してやるさ」