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第五話 社畜スキル、レベルアップ。ゴブリンとギルドと闇の爪


──ギルドカウンター前。

報酬金の袋を受け取った俺は、その中身を確認して──思わず叫んだ。


「……は!? これだけ!?!?」


革袋の中には、銀貨1枚。あと、ちっちゃい銅貨が2枚。


「いやいやいや、オーク3体だよ!? 報酬5銀貨だったよな!? どこいった俺たちの銀貨ァァ!!?」


「はいはい、ここに内訳書が」


受付嬢が事務的に手渡してきた紙にはこう書かれていた:

•ギルド管理費:2銀貨

•魔獣解体手数料:1銀貨

•冒険者育成費:0.5銀貨

•不明項目(×5):0.5銀貨


律が紙を覗き込みながら、ポカンと口を開けた。


「え、これ……もしかして、ピンハネ80%ってやつじゃない!?」


俺は思わず肩を震わせ、額に青筋を浮かべた。


「なぁおい、俺は異世界まで来てブラック企業に仕えるのか!? やってられるかバーカ!!」


ルナが隣で肘をつきながらため息をつく。


「まぁまぁ、ええやん。金は命より重くないって──」


「命よりは軽いけど、生活より重いわ!!!」


律は能天気にパンをもぐもぐ食べながら言った。


「じゃあさ、逆にピンハネされてもいいくらい稼げば?」


「それもう働いたら負けの極みじゃねぇか!!」


セレナはというと……黙って何かを見つめている。

ふと彼女が、ぼそりと呟いた。


「……お父様も……ギルドには、よく怒っていました……」


その目は、どこか遠くを見ていた。



──気を取り直して依頼掲示板の前。


「うーん……何かマシな依頼……あった!」


俺が指差したのは、「ゴブリン討伐依頼:10体/報酬3銀貨」。


「ちょ、10体で3銀貨!? さっきのより効率落ちてない?」


「いや、オークよりはマシだろ。命の保証的な意味で」


「たしかに。あとゴブリン、魚より美味しそうだし」


「律、お前は黙ってろ」


俺は依頼票を手に取ると、ステータス画面を開いた。



【安心院直樹】

職業:戦士

スキル:

・臨機応変(周囲の物を即席武器に転用)

・社畜魂(NEW!!):依頼処理効率化。段取り・整理整頓・報連相の強化



「……スキル“社畜魂”って、地味に有能じゃないか?」


依頼票を手にした瞬間、それが自動でパッと三分割に整理され、

「敵数:10体」「目標時間」「報告様式」と項目が浮かび上がる。


「うわ、これめっちゃ見やすい!」「仕事早っ!」


後ろから冒険者たちの声が上がる。

なぜか拍手までされた。


「なんで感謝されてんの俺……!」


律が肩をポンと叩いてきた。


「直樹、冒険者界のホワイト改革、始めようぜ」


「軽く言うなお前」


受付カウンターの奥で、目の下にクマをつくった女性職員が疲れた顔で紙を数えているのを見て、俺はふと思った。


「……なあ、休憩室、作ろうぜ」


「は……?」


「このギルドに。せめて座れるスペースと、温かいお茶。社畜の心の拠り所を……!」


「世界観に優しすぎやろ」



──深い森。薄曇りの空の下、ゴブリンたちの気配が近づく。


「10体……こっちも本気出すぞ!」


「──来たわ!」


セレナが指差した方向から、獣のような足音と叫び声が。


「“ファイア・ランス!”──ッ!」


燃え盛る火球が放たれた……が、今回は制御が成功。

空中で一度収縮してから、見事に命中。


「うまくいった……!」


セレナが目を輝かせる。その顔には、初めての達成感が滲んでいた。


「すげぇぞ、セレナ! 今のは完璧だった!」


「……ありがとうございますっ!」


次の瞬間、律がにやっと笑って、杖を構えた。


「じゃ、僕もやるね! “爆裂魔法・ノーリミットォォォ!!”」


「ノーリミットやめろバカ律! それは制限なしの意味!!」


ドゴォォンッ!!!


地面にクレーターができた。

「3匹倒せたけど、地形破壊の方がデカくない?」ってレベル。


「……ごめん、またフィールド変えちゃった」


「変えすぎや! 地形職人かお前は!」


ルナは両手を広げ、「風の結界」で前線をカバーする。


「ほら、直樹。仕事は分担が基本やで」


「サンキュ、ルナ! そっちは頼む!」


俺は落ちてた木の枝と丸い石を拾い、即席のスリングショット構成でゴブリンのこめかみに一撃。


「よし、1体片付けた!」


──そのとき。


セレナが一瞬、硬直する。

視線が宙を泳ぎ、魔力が不安定に揺れる。


「やだ……また、あのときみたいに……村が、燃えて──」


「セレナっ!」


俺はすぐに駆け寄り、彼女の肩を掴む。


「見ろ、火はついてない。村もない。ここは大丈夫だ」


セレナは唇を噛みながら、小さく震えた手を握りしめる。


「……ごめんなさい、私……でも、大丈夫。もう、逃げません」


横からルナがそっと手を重ねる。


「セレナ。背負い込みすぎんでええ。うちらは一人ちゃうやろ?」


セレナの瞳に、涙が一筋浮かんだ。



──戦闘終了。無事10体撃破。


ギルドに戻ると、カウンター前でひとりの男が待っていた。


黒ずくめのローブに、斜に構えた細い目。

ギルド幹部──らしいが、どう見ても裏稼業の雰囲気。


「ふん、また新顔が稼いだか。調子に乗るなよ? 報酬があるだけありがたく思え。じゃないと──事故るぜ?」


俺はその目を真っ直ぐ見返す。


「“事故”が多すぎる職場は、もはや犯罪だろうが」


「はあ?」


「このシステム、全部変えてやるよ。社畜ナメんな」


ルナがくすっと笑って呟いた。


「ふふ……転生者って、どいつもこいつもおもろい運命やなぁ……」


その瞳は、どこか遠くの未来を見ているようだった。


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