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第三話 この世界、まさかの魔王ロスで崩壊中?


「ん……」


朝日が差し込む宿の一室。

毛布の中で小さく身じろぎしたのは、俺たちが昨日拾った──いや、保護した少女・セレナだった。


「おはよう、セレナ。調子はどう?」

「……はい。頭がふらふらしますけど……昨日よりずっと……」


セレナは頬を染め、ふかふかじゃない布団から起き上がる。

っていうか、やっぱ痩せすぎだろこの子。


「もっと食べないとヤバいから。はい、これ。焼きパンと……謎の赤い汁」

「ありが……あれ、これ酸っぱ……あっ、目が……!」


「ごめん、それは俺も正体わからん……」



パンをかじりながら、ふと昨日の言葉を思い出す。


「そういえば、セレナ……魔王の娘って言ってたよね。

てことは、魔王って……ほんとに、倒されたの?」


「……はい。父は英雄の剣によって……」


「英雄の剣!? なんか急にファンタジー始まった!」


「でも……父がいなくなってから、世界は……おかしくなりました」


セレナが小さくつぶやく。


「魔族たちは統率を失って暴走、森は荒れ、魔物が増え……

人間の国も混乱して……兵士が足りなくて、ギルドの人員まで戦場に送られたり……」


「うわ……完全に崩壊しかけてんじゃん……!」


「結果、ギルドは人手不足になって、今ではもう……冒険者養成所というより、命の投資場みたいに……」


「言い回しが絶望的すぎるわ!!」



「ていうか俺、自分の今のステータスって見れないの? 転生者っぽく“ステータス確認!”って言えば出る?」


「……まあ、言うてみたらええんちゃう?」


「え、“ノリ”なの!?」


とりあえずやってみる。


「ステータス確認!」


──ピコン、と視界の右上に、半透明のウィンドウが浮かぶ。


【 名前 】安心院直樹

【 年齢 】28

【 種族 】人間(転生者)

【 職業 】戦士

【 Lv 】4

【 HP 】160/160

【 MP 】38/38

【スキル】社畜魂Lv.3/ストレス耐性MAX

【称号】異世界転生者/労働者の業を背負いし者


「社畜魂って何!? 聞いたことないんだけどそんなスキル!!」


「うちがちょっとカスタムしたった♡」


「ふざけんな! 社畜魂とか、もう俺の生き様バレバレじゃん!!」



「はぁ……ギルドを改革するって言っても、金もコネもねえしな……」


とりあえず、ギルドへ戻る俺たち。

中はやっぱり荒れたままで、掲示板の“地獄求人票”も更新されず張りっぱなしだった。


「はあ……この世界、完全に詰んでるやろ……」

「だからこそ俺が何とかしないとダメなんだよな。誰もやらないなら、やるしかねぇ!」


その決意を胸に、俺はギルドの隅にいた中年男性──職員らしき男に声をかけた。



「すみません、ちょっとお話……」


「ん、あんた新人か? 悪いこと言わねぇ……ここはもう、手遅れだ。」


「そんな即死判定みたいなこと言わないで! 俺、ギルドを変えたいんです!」


「……前にもな、そんなこと言ってた奴がいたんだよ。

残業ゼロの世界を!とか言ってた。……でも、現実に負けた。魔物じゃなく、仕事に殺されたんだ」


「いやそいつが真の英雄すぎる!!」


「悪いが俺はもう、期待も希望も捨てちまった。

この世界は、こういうもんなんだよ。あきらめろ。若いうちに……」


「そのセリフ、ブラック企業の部長から聞いたことある!!」



現実に打ちのめされた俺は、セレナとルナを連れて川辺へ。


「ルナ……俺……ちょっとだけ、川で流されていい……」

「止めはせんけど、せめて浮輪つけてな?」


「どこの世界でも優しさが雑なんだよ!!!」


そのとき──


「……あれ? なんか……川でバシャバシャしてる人いますよ?」


「ん? あー、魚追いかけてんな」

「いや待って!? 水中でガチの格闘してない!? あれ素手!? 魚に殴られてない!?」


そして──金髪の男が、水飛沫と共に盛大にコケた。


「ぶふっ!!!」

「やばい! 溺れてる!? おーい、生きてるかー!?」


慌てて助け上げると、金髪男は顔を上げて──ニッと笑った。


「よぉ、直樹じゃねぇか! 僕だけじゃなくお前も転生してたのな!」


「律ーーーーーーーーーー!!??」

「うっそ!? お前その顔どうしたの!? 顔面バージョンアップしてない!? どこ製の!? 転生メーカー!?」


「ははっ、よくわかんねぇけど、目ぇ覚めたらイケメンだったんだよな~!」


「知ってるよ!? 前からイケメンだったよ!? でも今はなんか賢者みたいな格好してるし!?」


「そうそう! ステータス見たら賢者だった! よくわかんねーけど、魔法も使えんの!」


「よくわかんねーことしかねぇな!!」



川辺に、再会の声とツッコミが響いた。

セレナはぽかんと見ているし、ルナはどこか満足そうに笑っている。


魔王が倒れた世界、崩壊したギルド、行き場をなくした希望。

だけど──


「仲間は、いるじゃん」


そんな気がして、俺はちょっとだけ、笑った。


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― 新着の感想 ―
拙作を読んでいただいたお返しと言ってはなんですが、鴛野さんの書かれている作品が気になったので読ませていただきました! 読みやすく、とても面白いです! 地獄みたいなブラック企業の改革にやる気を出す、正義…
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