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第二十九話 黒い羽の真相



 ギルドの会議室に、静かな魔力の唸りが満ちていた。

 夜更け。

 誰も口を開かないまま、ルナの机だけが青白い光を放っている。


 結界の中心に置かれたのは、あの鉱山で見つかった黒い鉱石――

 “魔瘴石”の欠片だった。


「……やっぱ、ただの鉱石とちゃうな」

 ルナが低くつぶやいた。


 顕微鏡のような魔導具を覗き込み、筆を走らせる。

 周囲には魔力式の図面と、翻訳された古文書が散乱していた。


「この中に……神界の“エネルギー構造式”が刻まれとる」


 セレナが息を呑む。

「どういうこと、それ……?」


 ルナは、燃えるランプの光に照らされながら言葉を続けた。


「魔瘴石な、ただの毒とちゃうで。

 ほんまは“神々の力”を供給するための結晶やねん。

 せやけど、その生成過程で、“人の生命力”が必要になんねん」


 部屋の空気が、一瞬にして重くなる。


 律が低い声で問う。

「つまり……神は、人間の“働く力”を吸い上げてる?」


 ルナが小さくうなずく。


「せや。生きて、動いて、作って、祈る……その全部が、神々の燃料や。

 “働く”いう営みそのものが、エネルギー循環の一部になっとんねん」


 沈黙。


 直樹の指先が、ゆっくり拳を握る音がした。

 机の木目に、爪が食い込む。


「……だからか」


「え?」セレナが首を傾げる。


「俺たちが“自由に働く”って言った瞬間、神が動いた理由だ。

 自分たちのシステムの外で動く“人間”は、神の計算を狂わせる。

 俺たちは、神にとって“エラー”なんだ」


 ルナが静かに彼を見る。

 彼女の金の瞳の奥には、悲しみと決意が揺れていた。


「……まるで、世界そのものがブラック企業みたいやんか」

 その皮肉に、誰も笑わなかった。



 ルナは立ち上がり、黒い鉱石を手に取る。

 掌の上で、それが黒い羽のように形を変える。


 あの時――魔瘴石が砕けた瞬間、散った羽。

 それは、神々が残した“使い捨てられた生命”の象徴だったのだ。


 ルナの指先が震える。

 それでも、彼女は静かに微笑んだ。


「……やったら、ええやん」


 仲間たちが彼女を見る。


「神が“労働”を縛るんやったら、うちらは“自由”を仕事にしたらええ。

 誰にも管理されへん働き方――“自由のシステム”を作るんや」


 セレナが目を丸くした。

「ルナ、それって……」


「せや。

 神の循環に代わる、新しい流れや。

 生きるために働くのとちゃうて、働くことで生きる意味を見つける――

 そんな世界を作るんや」


 直樹は一瞬、言葉を失っていたが、やがてゆっくり頷いた。


「……いいな、それ。

 “働く”を、神の支配から取り戻すんだな」


 ルナが微笑む。


「そやな。“黎明の旗”て、そういう意味やろ? 夜明けを掲げる旗って」


 窓の外で、夜明けの光が差し込み始める。

 東の空が、淡い橙に染まっていた。


 黒い羽が、一枚、窓から風に乗って舞い上がる。

 ルナはそれを見上げながら、小さくつぶやいた。


「うちらが夜を越えるんやったら……神々も、きっと震え上がるやろな」


 直樹は肩で笑いながら言う。

「上等だ。――残業の続き、やろうか」


 その声に、みんなが笑った。


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