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第二話 働き方改革ってのが、何か見せてやるよ。


セレナをおぶって、俺たちは森を抜けた。


「重くない?」

「ぜんぜん。むしろこの軽さの方が問題」

「ふぇ……ごめんなさい……」

「謝らないで! もっと食べて! 栄養とって! てか誰かご飯持ってきて!!」


そんなドタバタの中、ようやく辿り着いたのは、ぽつんとした中規模の村。


「ここがリーヴェ村。このへんじゃまあまあ大きい方やな」

「助かった……人のいる場所、文明……屋根!! トイレ!!」


全裸から始まった異世界生活、ようやく文明レベルが1上がった気がする。



まずはセレナを安全な場所に休ませる必要がある。

となれば、冒険者たちの集うギルドに行けば何とかなるだろう──という浅はかな社畜的発想で、俺はその建物に向かった。


「ギルド、ここやな。行こか」

「うん……って、え。なんか、雰囲気が……」


建物はボロボロ。看板は傾き、ドアはギーギー鳴るし、入り口に何人か倒れてる。


いや待て、倒れてるって何!?


「死んでないよな!? 生きてるよな!? これはそういう演出だよな!? ゲーム的な!」


「んー、たぶん倒れてるだけやな。過労とかで」

「過労で路上で寝るな!! ここ、何!? 地獄!?」


ギルドの中に足を踏み入れると、異様な静けさ。

茶髪ロングの美人受付嬢は、立ったまま目を開けて寝ていた。


「え、えーと……すいませ──」


「ハッ!? い、いらっしゃいませ!! 本日はどのようなご依頼で!!?」


声が裏返りながら、彼女が機械的に言葉を吐く。


目の下には深いクマ。腕には包帯。

もはや命の限界を超えた笑顔。なんか……いろいろ限界。


「ちょっと落ち着いて!? 救急車! 救急馬車とかないの!?」


「いえ、そんなものは……それより依頼受けますか!? 冒険者登録もできますよ!? 何でもやります!!」


「怖い怖い怖い怖い」


──そのとき、掲示板に貼られた紙が目に入った。


【求人票】


■新人冒険者募集■

・週7勤務(休暇申請不可)

・1日12時間以上の拘束(超過アリ)

・日給:銅貨1枚(手取り)

・危険手当ナシ

・死亡時、自己責任

・依頼拒否:反逆罪

・逃亡:懲役5年


「……………………」


「……これ、求人……?」

「いや、これもう罰ゲームやん」


掲示板には、ズラリと同じような求人票。

しかも全部貼りっぱなし、誰も持っていかない。


「ていうか、これは労基が飛ぶレベル……って労基ねえわここ」

「うち、冒険者の魂見たことあるけど、ここの連中は全員疲れたって言ってるで」

「なにそのホラー!!?」



「こんなん、働かせるじゃなくて……殺しにきてるだろ……」


まるで、あの頃と同じ空気。

あの深夜のオフィス。息苦しくて、目が霞んで、それでもやるしかなかった毎日。

そして──その果てに、俺は死んだ。


「……もう、そんな世界はごめんだ」


「お? 顔変わったな?」

「決めた。俺がここ、変える。ギルドとかいうブラック企業、俺が潰して立て直す」


「おー! 言うたった!」

「セレナも、ルナも、……これから出会う人たちも。誰一人、俺みたいに過労死させない。

働き方改革ってのが、何か見せてやるよ。この異世界に!」


──ギルドの壁に貼られた求人票を、バリッと引きちぎる。


ルナが笑う。


「ほんま、見てて飽きんやっちゃな」


その肩に、小さく寝息を立てるセレナ。


新たな異世界の日常は、ブラックだけど面白くなってきた。


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― 新着の感想 ―
とても面白かったです!カオス笑笑 こちらも改革するんですね!Xから来ました。
はい、Xから来ました超越世界です。 Xの方でも言ったんですけど、すごい怒涛の展開ですね笑。 突如死んで、転生して全裸、からの関西弁精霊に魔王の娘、そしてブラックギルド。 あと、精霊が使い魔になるんじゃ…
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