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第二十三話 魔瘴石の魔人

 ――鉱山が、悲鳴を上げていた。


 地鳴りとともに、坑道の奥から黒い靄が吹き荒れる。

 それは瘴気の暴風。

 中心には、黒く硬質な肉体に変わり果てた“魔瘴石の魔人”が立っていた。


 眼孔は光を失い、口元からは赤黒い結晶が滴っている。

 人の名残は、もうどこにもない。


「……これが、“働かされすぎた末路”かよ」

 直樹が唇を噛む。


 魔人が一歩踏み出すたび、地面が沈む。

 その拳が空を裂き、ルナたちに黒い波動を放つ。


「来るで!」

 ルナが風の障壁を展開するも、衝撃波で吹き飛ばされる。

 律が飛び込み、ルナを抱きかかえた。


「無理すんな! こいつ、ただの魔物じゃねぇ!」



 セレナが炎の矢を放つ。

 燃え盛る紅蓮が魔人を包む――が。


「……消えた!?」


 火は吸い込まれ、逆に魔人の体が輝きを増した。


 ルナが息を呑む。

「魔瘴石は魔力を“食う”……せやから、魔法攻撃はあかん!」


 律が舌打ちしながら駆け出す。

「なら物理で行く!!」


 剣が閃き、魔人の腕を斬りつける――だが、金属音だけが響いた。


「っ……硬すぎる……!」

 律の剣が弾かれ、衝撃で後退する。


 直樹が冷静に全体を見渡した。

 セレナは距離を取って再詠唱。ルナは防御魔法維持、律は前衛維持――

 すべてが無駄じゃない。だが、かみ合っていない。


社畜魂スキル・発動


「……“業務再構築リストラクチャー”」

 直樹の瞳に青白い光が宿る。


 周囲の戦況、仲間の行動、敵の特性――

 すべてのデータが彼の脳内で回転し、最適化されていく。


「セレナ、魔力制御を『圧縮燃焼』モードに変更。ルナ、風と水を二重層で展開して――“排熱結界”を作ってくれ!」

「はい!」

「わかった!」

「律、魔人の右腕関節に微細な亀裂がある。そこを抑え込め!」

「おうっ!」


 声が飛ぶたび、戦況が変わる。

 まるで彼らが一つの“組織”として動いているかのようだった。


「リーダーの采配ってこういうことか……!」

 律が笑いながら剣を構える。

「直樹の指示、妙に社畜臭ぇけど最高だぜ!」

「黙って働けッ!!!」

 直樹の怒鳴りとともに、再構築された戦術が始動する。



 ルナが詠唱を完了。

「“双流結界デュアル・カレント”――発動!」

 風と水の渦が交差し、坑道全体に冷却と遮断の層を張る。

 黒い瘴気が押し返され、空気が澄む。


 その中へ、セレナの炎が射出された。

「“紅蓮圧縮弾バーン・コンプレッサー”――いっけぇぇぇ!!」


 炎球がルナの結界を抜ける瞬間、圧縮された熱が増幅し、

 暴走せずに――一点集中で魔人の胸部へ直撃した。


 轟音。閃光。

 熱波が坑道を駆け抜け、黒い外殻がひび割れる。


「今だ、律!!」

「任せろッ!!!」


 律が跳躍し、ひびの中心へ渾身の斬撃を叩き込む。

 ――刃が突き刺さる。

 黒い結晶が砕け、内部から瘴気が爆発的に溢れた。


 直樹が前へ出て、掌を翳す。

「社畜魂スキル──“残業終息オーバータイム・リリース!!”」


 彼の魔力が光となって仲間たちを包み、残った瘴気を中和する。

 黒い鉱石がぱらぱらと剥がれ落ち、やがて風に乗って舞い上がった。


 その姿は――まるで、黒い羽が散るように美しかった。


 静寂。

 坑道の奥に残ったのは、崩れた魔人の骸と、うっすらと光る結晶の欠片だけ。



「……終わった、のか?」律が息を切らして言う。

「ええわ、魔瘴石の反応は消えたで」ルナが頷く。


 だが、彼女の顔はどこか曇っていた。

 掌に残った黒い羽根のような欠片を見つめながら、

 ルナは小さく呟く。


「……この石、もしかして……」


「ルナ?」セレナが首を傾げる。


 ルナは目を伏せ、風の魔法でその欠片を空へ流した。

 だが、その一瞬、欠片の表面に奇妙な紋章が浮かぶ――

 “翼の印”。


「……いや、まだ、確信はないわ。けどな……もしこれが本物やったら――」


 彼女の言葉は風にかき消された。


 坑道を出た空は、いつの間にか薄く曇り始めていた。

 黒い羽が、ゆっくりと空へ昇っていく。


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