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間話 光る羽の小鳥

昼下がりの風が心地よい日だった。

俺たちはギルドの掲示板を前に、依頼が少ないのをぼやいていた。


「今日は平和だな……」

俺が伸びをすると、律がにやりと笑った。

「直樹、珍しく仕事がないと落ち着かない顔してる」

「いや、そんなことは……いや、ちょっとあるかも」

ルナが尻尾を揺らしながらあくびをする。

「社畜魂の禁断症状やな」

「やかましい」


そんな、いつもの日常の中で。

──かすかな鳴き声が聞こえた。


「……今の、鳥?」

セレナが首を傾げ、路地裏を覗き込む。

俺たちも後に続くと、そこには──


小さな、小鳥が倒れていた。

片方の翼が血で濡れ、かすかに光を放っている。

普通の鳥じゃない。

……精霊種だ。


「うわ……精霊鳥リュミナやんか」

ルナが目を丸くする。

「こんな街中で見るなんて珍しいで。普通、森の奥にしかおらん」


「助けなきゃ!」

セレナがしゃがみ込み、そっと手を伸ばした。

だが鳥は怯え、弱々しく翼をばたつかせた。


「怖がってる……」

「……任せろ」

俺は膝をつき、そっとポケットからパンの欠片を取り出した。

「ほら。お前、腹減ってるだろ」


少しの沈黙のあと、鳥はちょん、と俺の指先に嘴を寄せた。

その瞬間、淡い光がふわりと広がり──傷ついた羽が、少しだけ震えた。


「よし……いい子だ」

俺は慎重に手のひらに乗せた。

体温は驚くほど軽く、儚い。

小さな命を、手の中に感じる。



ギルドに戻り、応急処置を施す。

ルナが作った薬草ペーストを羽に塗り、セレナが魔法で体温を維持。

律は「僕、鳥語わかるかも!」とか言って耳を寄せていた。


「チュ……チュルル……」

「うんうん、たぶん“ありがとう”って言ってる」

「絶対違うと思うけど……」

俺は苦笑しながらも、どこかあたたかい気持ちになっていた。


小さな生き物一匹助けるだけで、こんなに空気が変わるのか。



翌朝。


光の中で、小鳥は翼を広げていた。

ルナが頬を緩める。

「治っとるな。ほんま、生命力の塊やわ」


セレナは少し寂しそうに微笑んだ。

「もう……行っちゃうんですね」


俺の肩に止まった小鳥が、一度だけ鳴く。

──そして、飛び立った。


青空に吸い込まれていくその姿は、まるで一筋の希望の光のようだった。


「……不思議だな」

俺が呟くと、律が笑う。

「何が?」

「助けたのはほんの一羽だけど……なんか、こっちが救われた気がする」


ルナが尻尾で俺の頬をぺしりと叩いた。

「それが“生かす”ってことや。お前、ようやく気づいたな」


セレナは空を見上げながら、そっと手を組んだ。

「……また、いつか会えるといいな」


陽光の中で、ギルドの旗が静かに揺れた。

その名の通り──“黎明”の色を帯びながら。


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