間話 光る羽の小鳥
昼下がりの風が心地よい日だった。
俺たちはギルドの掲示板を前に、依頼が少ないのをぼやいていた。
「今日は平和だな……」
俺が伸びをすると、律がにやりと笑った。
「直樹、珍しく仕事がないと落ち着かない顔してる」
「いや、そんなことは……いや、ちょっとあるかも」
ルナが尻尾を揺らしながらあくびをする。
「社畜魂の禁断症状やな」
「やかましい」
そんな、いつもの日常の中で。
──かすかな鳴き声が聞こえた。
「……今の、鳥?」
セレナが首を傾げ、路地裏を覗き込む。
俺たちも後に続くと、そこには──
小さな、小鳥が倒れていた。
片方の翼が血で濡れ、かすかに光を放っている。
普通の鳥じゃない。
……精霊種だ。
「うわ……精霊鳥やんか」
ルナが目を丸くする。
「こんな街中で見るなんて珍しいで。普通、森の奥にしかおらん」
「助けなきゃ!」
セレナがしゃがみ込み、そっと手を伸ばした。
だが鳥は怯え、弱々しく翼をばたつかせた。
「怖がってる……」
「……任せろ」
俺は膝をつき、そっとポケットからパンの欠片を取り出した。
「ほら。お前、腹減ってるだろ」
少しの沈黙のあと、鳥はちょん、と俺の指先に嘴を寄せた。
その瞬間、淡い光がふわりと広がり──傷ついた羽が、少しだけ震えた。
「よし……いい子だ」
俺は慎重に手のひらに乗せた。
体温は驚くほど軽く、儚い。
小さな命を、手の中に感じる。
※
ギルドに戻り、応急処置を施す。
ルナが作った薬草ペーストを羽に塗り、セレナが魔法で体温を維持。
律は「僕、鳥語わかるかも!」とか言って耳を寄せていた。
「チュ……チュルル……」
「うんうん、たぶん“ありがとう”って言ってる」
「絶対違うと思うけど……」
俺は苦笑しながらも、どこかあたたかい気持ちになっていた。
小さな生き物一匹助けるだけで、こんなに空気が変わるのか。
※
翌朝。
光の中で、小鳥は翼を広げていた。
ルナが頬を緩める。
「治っとるな。ほんま、生命力の塊やわ」
セレナは少し寂しそうに微笑んだ。
「もう……行っちゃうんですね」
俺の肩に止まった小鳥が、一度だけ鳴く。
──そして、飛び立った。
青空に吸い込まれていくその姿は、まるで一筋の希望の光のようだった。
「……不思議だな」
俺が呟くと、律が笑う。
「何が?」
「助けたのはほんの一羽だけど……なんか、こっちが救われた気がする」
ルナが尻尾で俺の頬をぺしりと叩いた。
「それが“生かす”ってことや。お前、ようやく気づいたな」
セレナは空を見上げながら、そっと手を組んだ。
「……また、いつか会えるといいな」
陽光の中で、ギルドの旗が静かに揺れた。
その名の通り──“黎明”の色を帯びながら。




