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第二十話 試される旗 その三


「はぁっ……!」

律の杖から光の槍が迸る。

鎧の戦士は大剣を振り下ろし、正面から叩き落とそうとした。だが──


「無駄だよ! もう僕、恐れてないから!」

律は光を瞬時に分裂させ、側面から突き刺した。

鎧の戦士の動きが止まり、甲冑に焦げ目が走る。


「ぐっ……小僧が……!」


律の顔には汗が滲んでいた。それでも、笑っていた。

「直樹に守られてばっかじゃ、ダサいからね。僕は僕で、仲間を守るんだ!」



その頃、セレナも必死に杖を握りしめていた。

弓弦が鳴り、氷の矢が雨のように放たれる。

だがセレナは怯えず、目を閉じて深呼吸。


(見える……炎の流れ……)


次の瞬間、彼女の周囲に炎の輪が広がり、迫る矢を全て溶かし尽くした。

「《フレイム・サークル》……!」

彼女の詠唱は震えず、炎は暴走せず、完全に制御されていた。


女弓使いが思わず後ずさる。

「なっ……この娘、急に……!」


セレナは一歩踏み出し、涙を浮かべながらも凛と叫ぶ。

「もう……誰も失いたくないの! だから私は、燃やすんじゃなく、守るために戦うの!」


火矢が一直線に走り、女弓使いの弓を弾き飛ばした。



戦況は一変した。

律とセレナ、それぞれが己の弱さを超えて、敵を圧倒し始める。


「……やるやん」

ルナが尻尾をふわりと揺らし、口元を緩める。


俺は胸が熱くなるのを感じながら、声を張り上げた。

「よっしゃ! 仕上げだ、二人とも──一緒に行け!」


「任せろ!」律が叫び、光を収束。

「えいっ!」セレナも火球を重ねる。


二人の魔力が絡み合い、閃光と炎が合わさった巨大な閃火の槍となる。


「《ライトニング・フレイム・ランス》!!」


轟音と共に放たれた一撃が、鎧の戦士と女弓使いの足元を吹き飛ばし、二人を地面に叩きつけた。


戦いの終わりを告げる静寂。

律とセレナは肩で息をしながらも、互いに笑い合った。



「……あいつら、本当に……」

俺は思わず呟いた。

(こんなに短期間でここまで強くなるなんて。ジークの修行は伊達じゃなかったな)


だが、ダグラスは動かない。腕を組んだまま、目を閉じていた。


「……なぜそこまでして抗う。どうせ、この国もギルドも腐りきってる。俺は、それを何度も見てきた」


その声には、かすかな震えがあった。

敗北を認めない頑固さというより、心の奥にこびりついた諦め。


「仲間を、弟子を……全部見捨てるしかなかった。潰されたんだ、改革者はな」


彼の目が開く。

その瞳は、希望を拒絶するように濁っていた。



俺は拳を握りしめ、前に出る。

「だからって……俺たちまで諦めさせようとするな」


「……何?」


「俺たちは、お前みたいに潰れたくない! だから“黎明の旗”を掲げたんだ!」

「夜がどれだけ深くても、朝は必ず来る。その旗は、そのためのもんだ!」


律とセレナも、ボロボロの身体で俺の隣に立った。

ルナは小さく笑い、尻尾で地面を叩いた。


ダグラスはしばらく黙っていたが──やがて、かすかに肩を揺らした。

「……フッ、青臭いな。俺が若かった頃を思い出す……」


それが嘲笑か、あるいはわずかな共感なのか。

だが、その目に宿る光は、ほんの一瞬だけ濁りを薄めていた。



こうして「黎明の旗」と既存ギルドの最初の衝突は幕を閉じた。

だが、まだ本当の戦いは始まったばかり。

諦めの世代と、希望を掲げる新しい世代。


その火花は、これからもっと激しく燃え広がっていくのだった。


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