第一話 俺の転生初日がすでにカオスな件について
「ふう……とりあえずこれでマシにはなったな」
全裸転生から数分後。
俺は今、落ち葉と蔓と謎の白い粉(正体不明)でできた“精霊印の即席服”を身にまとっていた。
「なあルナ。これ……すごいけど……なんかチクチクするんだけど」
「贅沢言わんの。てかアンタ、そもそも“全裸でスライム囲まれて”たやん。人としての尊厳ゼロやで?」
「それ言わないで」
助けてくれた恩人(?)に向かって文句も言えず、俺は微妙にチクチクする服を直しながら、森を歩いていた。
「とりあえず水が欲しいな……。喉カラッカラだ」
「ちょうどええ池があるで。案内したる」
ルナの指(前足?)さす方向へ向かうと、小さな池がひっそりと佇んでいた。
「助かる……ゴクッ……ぷはあっ……!」
命の水。生き返るとはこのことだ。
だが、ふと水面に目をやって──
「…………誰?」
「いや、アンタやがな」
そこには、見たことのない男が映っていた。
青い髪、金色の目、そこそこ整った顔立ち──え、俺、こんな顔だったっけ?
「俺……転生して……少しかっこよくなってる……!? 社畜やめたら人生、整いすぎでは……!?」
「たまーにおるんよな。魂の性質に体が引っ張られるタイプ。まあ、その顔やったら悪いことにはならんやろ」
「悪いことって何だよ……?」
※
そのまま池のそばで休憩していた俺に、ふと疑問が浮かぶ。
「なあルナ。なんでお前、俺を助けてくれたんだ?」
「んー……面白かったから?」
「軽っ!!」
「だってアンタ、全裸で転生してスライムに囲まれてパニクってんのに『誰か助けて』って叫んでるの、ちょっと笑ってまうやん?」
「死にかけてたんだけど!?」
「でも、そのへんのやつと違って、目が死んでなかったんよ。なんやろ、“まだ諦めてない人間”って感じしたわ」
「え……」
「せやから……そういうの、ちょっと見てたいなーって。別に深い理由ちゃうけど、悪くはないやろ?」
そう言って、ルナはふわっと俺の肩に飛び乗った。
「……で、本題やねんけど。アンタ、うちの使い魔にならへん?」
「え!? 逆じゃないの!? 精霊って、人間の使い魔になるんじゃ!?」
「うちの世界では、精霊が契約主になんねん。おもろいヤツにだけ、特別に声かけるんよ。つまり、うちはアンタをスカウトしたってわけや」
「いやいや、重すぎない!? なんか試されてない!?」
「安心せい。“使い魔契約”って言うても、そんな大したことやない。ちょっと魔力流し込んで、念を込めるだけや。副作用もないし、パワーアップもできるし、うちとも話しやすくなるし、お得やで?」
「完全に勧誘文句じゃねぇか……」
「いややったらええけど、契約切ってから死んでも知らんで?」
「脅し入ってんじゃねーか!」
──そんなこんなで、言葉巧みに説得され、俺は“使い魔契約”という謎儀式を結ぶことになったのだった。
※
そしてその数時間後。
「なあルナ、なんか人の気配しないか?」
「うん……向こうの路地に……あれ、誰か倒れてるで」
ルナが指さした先、木の影にうずくまる小柄な少女の姿。
赤い髪、細い手足、ボロボロの服。見るからに衰弱してる。
「おい! 大丈夫か!?」
俺が駆け寄っても、彼女はうっすら目を開けるだけで、ほとんど動かない。
「……た、食べ物……」
「うわ、ガチでヤバいやつだこれ。ルナ、何かないか!?」
「果実持ってるで。ほれ」
ルナから受け取った果実を少女の口元に持っていくと、彼女はゆっくりとそれをかじり──
「……ありがと。……私は、セレナ・ビスマルク。……滅ぼされた……魔王の、娘……です……」
「………………は?」
その場に吹きすさぶ風。
「ちょっと待て。魔王って……倒されたって、え、マジで?」
「うん、わりと最近の話やで。え、アンタ知らんかったん?」
「初耳だよ!!! ていうかそれ、ファンタジー世界的には超重大ニュースじゃね!?」
──転生早々、精霊と契約し、裸でスライムに囲まれ、
倒れてた女の子は魔王の娘で、魔王はすでにこの世にいない。
俺の異世界人生、出だしからカオスすぎる──。