第十八話 試される旗 その一
森の奥。戦いの火蓋が切られた。
「黎明の旗」の前に立ちふさがったのは、既存の中堅ギルド《鋼角の誓い》。
その一団を率いるのは、かつて俺に「希望を抱くな」と言い放った、中年職員──ダグラスだった。
彼の背中は今も疲弊したまま、しかしその視線は鋭く俺たちを射抜いている。
「……言ったはずだ、新参ども。ここで夢を見るなと。だが……もし本気なら、示してみろ」
ダグラスがそう告げると、彼の若い部下二人が前に出た。
一人は全身を重厚な鎧で固めた巨漢戦士。
もう一人は漆黒の弓を携えた鋭い眼差しの女弓使いだ。
「律、セレナ……行けるか?」
俺が問いかけると、律は胸を張って親指を立てた。
「任せろ直樹! イケメンの見せ場はここからだ!」
「わ、私だって……! もう怖がってばかりじゃいられません!」
セレナが震える指先で杖を握りしめ、決意を込めた瞳を向ける。
※
律VS鎧の戦士
「ガハハッ、ガキが一人で俺に勝てると思うか!」
鎧の戦士が大剣を振りかぶる。空気が震え、律は慌てて飛び退いた。
「うおっ!? ちょ、でけぇなこの人!?」
光の障壁を展開する律。しかし衝撃で地面が裂け、障壁に亀裂が走る。
「力押し……律の苦手な相手やね」
ルナが横で呟いた。
確かに、賢者である律の光魔法は支援・防御向き。真正面からの膂力勝負は分が悪い。
「うおおおっ! まだまだぁ!」
律は光の槍を形成し、突撃する。しかし鎧の戦士は盾で受け流し、重いカウンターを叩き込んできた。
「ぐあっ!」
律の身体が地面を転がり、木の根に背中を打ちつける。
「律!」
俺の声が響くが、律は苦笑して立ち上がった。
「……っへへ、直樹。ちょっと痛いけど……まだイケる!」
その笑顔の奥に、焦りの色が混じり始めていた。
※
セレナVS女弓使い
一方、セレナの前では女弓使いが弦を引き絞っていた。
「火の魔女か……相性は最悪ね。私の矢で、その火を掻き消してやる」
「なっ……!」
セレナが放った火球が、矢羽根に仕込まれた氷魔法によって弾き飛ばされる。
ジュッ、と蒸気が立ち昇り、互いの魔力が拮抗する。
「ひぃっ……!」
次々と射られる矢に、セレナは必死に防御魔法を張る。
だが、氷の矢は火の盾をすり抜け、頬を掠めた。白い肌に赤い線が走る。
「セレナ!」
俺の叫びに、彼女は怯えた瞳をこちらに向ける。
けれど、その足はもう逃げ場を探していた。
「……やっぱり、お前たちはまだ未熟だ」
腕を組んだダグラスが、冷たく言い放つ。
「希望を掲げるには、力が足りん」
その言葉が、胸に重く突き刺さる。
律は押され、セレナも追い詰められていく。
まるで「黎明の旗」が試されているかのように──。