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第十六話 ギルドハウス大掃除!


三日後の昼。

俺たちの新たな拠点──元酒屋は、見事に埃とクモの巣と酒のシミで覆われていた。


「うわぁぁ……これは“居酒屋”じゃなくて“遺跡屋”だな……」

俺がため息をつくと、セレナはハンカチで口元を押さえ、半泣き。

「ひ、ひどい……床がベタベタして……魔物の巣より恐ろしいです……」

ルナは箒を肩に担いで笑っていた。

「まあ、みんなでやれば楽しいもんや。ほら、青春やん」


そのとき──

「ただいまァァァ! 待たせたなァ!」

律が扉を蹴破る勢いで帰ってきた。


「うおっ!? いきなりドア壊すな! 今すでにボロいんだから!」

「細かいこと気にすんな! 朗報だ! ギルド申請が──通ったぜ!」


全員「おおおっ!!」と拍手。


律はドヤ顔で胸を張り、さらに紙束を取り出した。

「ただし! 改めて書類を書いて出さないといけねぇらしい! 名前とか住所とか代表者のステータスとか……あとは、ギルド正式名称もな!」


「……まあ、そう来るよな」

俺は腕を組んで頷いた。

「けど今は書類より掃除だ。こんな状態で住所“元酒屋”って書いたら絶対笑われるだろ」


「確かに」

ルナが尻尾を揺らしながら頷く。

「まずは見た目整えんと、信用されへん」


こうして大掃除が始まった。



床下から茶色い影がササッと走り抜けた。


「うおっ!? ネズミだ! ネズミが走ったぞ!」

俺が叫ぶと同時に、セレナの悲鳴が酒場跡に響き渡った。

「きゃあああっ!」


 その声に反応した律が、まるで獲物を追う猫のように飛び出す。

「待てコラァァァ!」

 だが勢い余って椅子の脚に足を引っかけ、ガタンと派手に倒してしまった。


「おいバカ! 壊すなっての! 戦場になるだろ!」

俺は慌てて止めに入り──その拍子に天井から埃がドサッ。


「げほっ、げほっ!? うわああ目がぁぁぁ!」

「直樹ィィ!? 目が死んでる!」


バタバタと騒ぎながらも、なんとか床の酒シミを拭き、椅子を磨き、窓を開け放つ。

ルナはマイペースに鼻歌を歌いながら雑巾を絞ると、窓を開け放つ。

長年閉ざされていた酒屋の中に風が流れ込んできた。

舞い上がる埃の粒子が光を反射して、空気が白く霞む。


 ルナは雑巾を肩にかけ、深呼吸をひとつ。

「ええ風やな……ほら、青春の匂いや」

尻尾をゆらりと揺らしながら、どこか懐かしげに呟いた。


 だが、その隣で窓拭きをしていたセレナは、顔をしかめて鼻をつまむ。

「ルナさん、埃と……酒臭しかしません……!」

 そう言ってむせる姿に、俺は思わず吹き出してしまった。



作業の合間。

俺と律は床を磨きながら、ふと口を開いた。


「なあ律……お前、転生してきたとき、どうだった?」


律は雑巾を動かす手を止め、少しだけ目を細めた。

「……僕はな、死んだあとすぐ異世界に来たんじゃねぇ」


「え?」


「なんかよ……“神”を名乗るやつらに会ったんだ。二人組の……男女の双子みたいな、変な神様」


ごしごし、と雑巾の音が響く。

律の声はどこか照れくさそうで、けど真剣だった。


「そいつらに言われたんだ。“この世界には転生者が少なくない。お前も選ばれた一人だ”ってよ」


俺は動きを止めた。

「……じゃあ俺とは違うんだな。俺は死んで、目を開けたらもうこっちだった」


「そうなのか? …ということは、たぶん、僕とお前じゃ“役割”が違うんだろうな」


律はにっと笑って雑巾をバケツに放り込む。

「ま、難しいことは置いとけ! 今は掃除だ!」


「……そうだな」

俺も笑い返した。



夕方。

ようやく掃除は終わり、埃臭い空気の代わりに風が吹き抜ける。


セレナがカーテンを結び、窓から差し込む光に目を細めた。

「……ここ、本当に私たちの拠点になるんですね」


ルナは満足げに腰に手を当てる。

「まあ、見違えたわな。これでやっと“ギルド”や」


律は机の上に寝転がり、両手を広げた。

「はぁぁ、疲れたぁぁ! 社畜時代よりハードじゃねぇか!」


「お前はサボってネズミ追いかけてただけだろ!」

俺はすかさずチョップ。


笑い声が、拠点の空っぽの空間に響いた。


(よし……ここからだ。俺たちのギルドの物語は)


俺は窓の外を見上げ、胸の奥で強く誓った。


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