第十五話 ギルド設立申請!
「──というわけで! 我らが新しいギルドの名は……」
律が両手を広げて宣言する。
「“ブラック企業撲滅ギルド”!!」
「却下ァァァァッ!!!」
俺は律の頭にすかさずチョップ。乾いた音が響く。
「痛っ!? え、いい名前じゃね? めっちゃ魂こもってるし!」
「それ、看板に書いたら敵しか寄ってこねぇだろ!」
「じゃあ“セレナちゃんファンクラブ”は?」
「もっとダメだわ!!」
セレナが顔を真っ赤にして慌てふためく。
「ふ、ファンクラブって……そ、そんなの……!」
ルナは尻尾を揺らしながらニヤニヤ笑っていた。
「まあ名前は後で決めよか。まずは形にせんと」
※
俺たちは町の役所へ向かった。
中は石造りの荘厳な建物で、受付には上品な制服を着た女性職員たちがずらり。
「はぁぁぁ……天国か」
律が鼻の下を伸ばして前のめりになる。
「お前、態度に出すな!」
俺は小声で牽制するが──遅かった。
律は迷わず窓口に突撃し、にっこりと笑顔。
「お姉さん、冒険者カードにサインしてもらえます? できれば“僕のハート”にも」
「は、はい??」
職員の女性が固まった瞬間──
「律ゥゥゥ!!! 何してんだバカ!」
俺は律の後頭部に容赦なくチョップを叩き込んだ。
ゴンッ。
「ぎゃあああ!? 頭割れるぅぅ!」
「す、すみません! こいつ病気なんです! 社交性の病気で!」
俺は必死で頭を下げた。
セレナは顔を覆って穴に入りたいといった表情。
ルナは机の上に乗ってお茶を飲みながら、くすくす笑っていた。
「ほんま、ええコンビやなあ」
※
なんとか騒ぎを収め、申請書に必要事項を書き込む。
代表者名「安心院直樹」、活動目的「冒険者の安全と健全な労働環境の確保」。
書きながら、妙に背筋が伸びる。
(……いよいよだな。俺たちの“ギルド”が形になる)
職員が書類を受け取り、にこやかに告げる。
「審査には数日かかりますが、問題なければ正式にギルドとして登録されます」
俺たちは揃って深々と頭を下げた。
※
次に向かったのは、不動産屋。
カウンターには丸眼鏡の小太りな中年男性が座っており、帳簿をめくりながら俺たちを見る。
「ギルド拠点を探してる? ふむ、条件は?」
「広さはそこそこ。仲間で集まって休める場所と、ちょっとした訓練場がほしいです」
「なるほどなるほど……では、こちらなど」
提示されたのは──
・郊外の廃屋(安いがボロい)
・町外れの古い倉庫(広いけどジメジメ)
・元酒場の建物(二階建て。厨房あり。ちょっと高い)
律が即座に叫んだ。
「酒場だろ! 絶対ここ! 居酒屋兼ギルドとか最高じゃん!」
「お前が飲みたいだけだろ!!」
「でもさ、酒場って冒険者集まるし拠点にピッタリじゃね?」
ルナがうんうんと頷く。
「確かに。雰囲気あるし、あんたららしいやん」
セレナも小さく笑った。
「私……みんなと一緒にごはん作れるなら、いいな」
──それを聞いた瞬間、俺は決めた。
「……よし。俺たちの拠点は、元酒場だ!」
不動産屋の親父が満足げに笑い、契約書を差し出す。
「いい選択だ。ここから新しいギルドが始まるんだな」
※
契約を終え、外に出ると──
空は夕焼けに染まり、街の喧騒が心地よく耳に入る。
律は拳を握りしめ、にかっと笑った。
「やべぇ! ついに僕たちのギルドができるんだな!」
セレナは少しはにかみ、胸に手を当てた。
「なんだか……夢みたい」
ルナは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、にやり。
「さて……ここからほんまに、“戦い”やで」
俺は胸の奥で強くつぶやいた。
(ジークさん……俺たち、必ずこのギルドを本物にしてみせます)
夕焼けの光の中、俺たちは未来に向かって歩き出した。