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第十三話 祝杯と影


「──合格だ」


ジークの短い一言に、俺たちは思わず顔を見合わせた。

疲労でぐったりしていた体が、一瞬で軽くなる。


「マジで!? やったああああ!!」

律が子供みたいに飛び跳ね、セレナは胸を押さえて安堵の涙をこぼした。

ルナは「ふふん」と尻尾を揺らし、得意げな顔。


そんな俺たちを見て、ジークは珍しく口元をゆるめた。

「祝いだ。……酒でも飲みに行くぞ」


「え、師匠が酒屋!? なんか似合わねぇ!」

「うるさい、新人。祝い事に口を挟むな」

「……はい」


こうして俺たちは、修行の地獄から解放されると同時に、街の酒場へと繰り出した。



夜の酒場は、冒険者たちの笑い声と木杯の音で賑わっていた。

分厚い木のテーブルに腰を下ろすと、香ばしい肉の匂いが鼻をくすぐる。


「お待たせしました! 本日のおすすめは“山鳥の丸焼き”と“茸のシチュー”ですよ〜!」

看板娘が大皿を運んできた瞬間、律の目が輝いた。


「うおお……! 直樹、見ろよ、肉汁が! あ、これ絶対うまいやつだって!」

「落ち着け、ハイエナかお前は!」


俺はフォークを突き刺し、熱々の肉を口に運ぶ。

──ジューシーな脂が広がり、香草の香りが鼻に抜ける。

「……っくぅ、うめぇ……」


セレナはパンをシチューに浸し、ほっぺを赤くして食べていた。

「ん……美味しい……こんなの、久しぶり……」


「うわぁ、セレナ、顔が緩んでる!」と律がからかうと、

「ち、違う! これは……料理が……」と真っ赤になって慌てる。


ルナは酒を片手に、尻尾を揺らしながら余裕の笑み。

「お前ら、はしゃぎすぎや。これからが本番やのに」

「いいじゃねぇか。今日は特別だろ」俺が言うと、ルナは肩をすくめた。


その横で、ジークが黙って杯を口に運んでいた。

いつもの冷徹さは薄れ、どこか遠くを見るような眼差し。



「……なぁ、ジーク」

ルナが静かに口を開いた。


「昔、あんたが初めて“精霊流槍術”を覚えた時のこと、覚えとる?」


その一言に、ジークの動きが止まった。

律もセレナも俺も、思わず耳を傾ける。


「忘れるわけがない。……あの時、俺はまだ半人前だった」

ジークは杯を置き、低く笑った。


「師匠の無茶な稽古に付き合わされ、槍を振り回しては倒れ、血反吐を吐いた」

「ふふ。あの頃はお互い若かったなぁ」

ルナは懐かしげに笑う。


だが、その表情にはほんの一瞬、影が差した。

「──結局、あん時の仲間は……もうおらんけどな」


ジークの目がわずかに細められる。

セレナが不安そうに俯いた。


(仲間……? やっぱりルナとジークには、何か大きな過去がある)

俺は杯を握りしめた。

聞きたい。でも、今はまだ聞けない。


代わりに、律が空気を変えるように声を張った。

「まっ、とりあえず! 今は僕たちの門出祝いだ! 今日は食え、飲め、笑え!」


「お前、良いこと言うじゃん」

「だろ? 主人公だからな」

「いや違うから!」


いつものようにツッコミを入れながら、俺たちは笑い合った。


その夜、酒場の灯りの下で、俺たちは確かに「仲間」として絆を深めた。

けれど、ルナとジークの背後にちらついた“影”は、確実にこの先の伏線を告げていた。


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