第十二話 試練の襲来
森に夕陽が差し込み、影が濃くなる。
今日の修行も終わりかと、俺たちがぐったりしていたその時だった。
──ズシン。
地響き。枝葉がざわめく。
「っ……来るぞ!」
ジークが槍を構えた瞬間、森を割るように巨大な影が現れた。
全身を黒い毛で覆った、二メートル超えのオーガ。
手にした棍棒を振り下ろすと、地面が砕ける。
「おいおい! これ訓練の範囲超えてない!?」
俺が慌てて叫ぶと、ジークは冷ややかに言った。
「いい機会だ。──お前たちの成果、見せてみろ」
そう言って一歩下がる。
完全に、試験扱いだ。
「ちょ……師匠!? 置き去りにしないで!?」
律が青ざめる。セレナは震える手で杖を握った。
ルナだけが「ほらほら、デカい玩具きたで」と楽しそうに尻尾を揺らしている。
俺は息を吸い込み、叫んだ。
「行くぞ! ここが踏ん張りどころだ!」
※
最初に飛び出したのは俺だ。
木剣を握りしめ、足元に石を拾って投げつける。
「おらぁッ!」
石がオーガの額に当たり、ほんの一瞬、動きが止まる。
その隙に間合いへ──
「ぐっ!」
棍棒の一撃。風圧だけで吹き飛ばされ、俺の背中は木に叩きつけられた。
肺から息が抜ける。視界が揺れる。
(やべぇ……! このままじゃ──)
「直樹ッ!!」
俺の目の前に飛び込んできたのは律だった。
彼の詠唱が光となり、オーガの腕を弾き返す。
「てめぇに直樹は触らせねぇ!!」
イケメンすぎるだろコイツ。
思わず「お前、主人公かよ!」って言いそうになった。
その後ろで、セレナが杖を掲げる。
翠の瞳が真剣に光った。
「今です……! 《ファイア・ランス》!!」
炎の槍が一直線に飛び、オーガの脚を貫く。
巨体がぐらりと揺れ、膝をついた。
「ナイス、セレナ!」
俺と律は視線を交わす。言葉は要らなかった。
一緒に駆け出し、俺が囮になって正面に飛び込む。
棍棒が振り下ろされる瞬間──
「今だ律ッ!!」
「任せろォッ!!」
律の詠唱が炸裂。
爆裂の光がオーガの頭部を弾き飛ばし、その隙に俺の木剣が渾身の力で突き刺さる。
「おおおおおおッ!!!」
二人の力が重なった瞬間──
オーガは轟音を立てて崩れ落ちた。
※
……静寂。
森に残ったのは俺たちの荒い息と、倒れた巨体だけだった。
「……勝った、のか」
俺が木剣を杖にして立ち上がると、律が横で笑った。
「ははっ……やっぱ僕ら、最強タッグだな」
「言ってろ……でもありがとな、律」
セレナはへたり込みながらも、嬉しそうに微笑んでいた。
「よかった……みんな、無事で……」
ルナは尻尾を揺らし、にやり。
「ふふ。ようやったやん。ちょっとは冒険者っぽくなったやろ」
ジークは腕を組み、静かに頷いた。
「……合格だ」
その言葉に、俺たちは思わず顔を見合わせた。
疲労でボロボロだが、胸の奥は熱く満たされていた。
(ああ……ここからだ。俺たちは、もっと強くなれる)
夕暮れの森。
俺たちは確かに、一歩前へと進んだ。