表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/21

第十一話 社畜、地獄の研修二日目

朝。

鳥のさえずりとともに目を開けると、体が鉛みたいに重かった。筋肉痛で腕は上がらず、足も石のように固まっている。


「……お、おはよう……」

俺が呻くように挨拶すると、横で寝ていた律が布団から半分だけ顔を出した。目の下にはクマ。


「おはよ……いや、これ完全に徹夜明けシフト明けの感覚だろ……」

寝癖をかきながら呻く律の姿は、かつてのブラック企業戦士そのものだ。


一方セレナはというと、火をつける手伝いをしながらも、ふらふらと膝が折れそうになっている。

「わ、わたし……昨日から足が棒のままで……でも頑張らなきゃ……」

それでも真っ直ぐ火口を見つめる目には、決意の色があった。


ルナは尻尾を揺らしながら、俺たちの様子を見てにやにや。

「ほら、始まるで。あんたら、今日が本番や」


そう、ジークが立っていた。

黒の軽装コートは朝の霧に溶け、青い瞳は冷たく光っている。

槍の石突きをトン、と地面に突き立てると、空気が引き締まった。


「走れ。昨日よりも速く、長く。止まったら死ぬ」


「またそれかよ!?」

俺が即ツッコミを入れると、律がボソッと。

「……いや、これはもう“走ることが業務”っていう研修カリキュラムだろ……」


セレナは涙目で声を上げる。

「し、死ぬって何回言うのぉ!?」


それでも走らされた。昨日よりも長い距離。

俺は歯を食いしばり、呼吸を合わせてなんとか前へ。

律は途中で足をもつらせながらも、「俺は……まだ……倒れねぇ……!」と意地を見せる。

セレナは泣きながら、それでも俺の背中を追い続けた。


ルナは相変わらず木陰でお茶をすすり、尻尾をぱたぱた。

「ふふ、ちょっとは“冒険者”らしくなってきたやん」


◆ 午後 ― 武器と魔法の訓練


「かかってこい。昨日より一撃多く俺に届かせろ」

ジークが槍を構える。


俺たちは三人で呼吸を合わせた。

律が光魔法で視界を奪い、セレナが火球を放つ。

俺は木剣を振りかぶり、突っ込む。


──が。

「遅い」

一瞬で槍が閃き、光も火も木剣も、まとめて叩き落とされた。


吹っ飛ばされた俺は、背中から土に転がる。

律は膝をつきながら、「や、やっぱ軍曹じゃん……」と呻き、

セレナは尻もちをついて唇を噛む。


「くそっ……まだ一撃も当てられないのか……」

俺は悔しくて、拳を握った。


ジークは無表情のまま俺たちを見下ろす。

「直樹、判断は悪くない。だが動きが鈍い」

「律、知識に逃げすぎる。体を動かせ」

「セレナ、炎は強いが……心の迷いがまだ揺らぎを生む」


セレナはびくりと肩を震わせた。

その横顔は、一瞬だけ暗い影を落とす。──過去を思い出しているような。

俺は言葉を飲み込んだ。今はまだ聞くべきじゃない。


◆ 夜 ― 精神修行


ジークは薪の前に座り、淡々と告げる。

「心を鎮めろ。社畜の心得をさらに教えてやる」


俺は思わず声を上げた。

「また社畜かよ!?」

隣で律が、寝癖の残った髪をガシガシ掻きながらぼそっと呟く。

「……いや、なんか逆にホームシックみたいになってきたわ」

セレナは膝を抱え、火の光に揺れる瞳で小さく震えた。

「やだ……怖いよ……」


だが瞑想を続けるうちに、不思議な感覚に包まれた。

仲間の呼吸、木々のざわめき、夜の魔力の流れ。

少しずつ、全部が見えてくる。


【スキル〈社畜魂〉が成長しました】

──『タスク分割(集中管理)』を習得。


俺はハッとして目を開いた。

「……! 頭の中が、整理される……!」

昨日よりも、冷静に周りを見られる気がした。


ジークは淡く頷く。

「そうだ。社畜の地獄も、活かし方次第で力となる」


律は「いや美化すんな!」と突っ込んだが……俺は、少しだけ誇らしかった。


◆ 修行二日目の成果

•直樹:タスク分割を習得。冷静さと戦術眼が向上。

•律:魔法詠唱のスピードが僅かに改善。体力も増加。

•セレナ:炎の制御に手応えを感じ始める。だが心の影は消えない。

•ルナ:見守りつつも、ときおりジークと視線を交わす。その間には、まだ語られぬ過去の気配が。


焚き火を囲んで、俺たちはぐったりと寝転がった。


「なぁ直樹……」律がぼそっと。

「これ……ブラック研修ってよりさ……ブラックでも“やりがい搾取系”だろ……」


「でも……」セレナは小さく微笑む。

「昨日より……ちょっとだけ、自分が強くなれた気がする……」


ルナは尻尾を揺らし、意味深に笑った。

「ほらな? 転生者ってやっぱり、おもろい運命に巻き込まれるんよ」


──俺たちの修行の日々は、まだまだ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ