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第九話 社畜、師匠に弟子入りする


「……はぁ」

俺はギルドの依頼掲示板の前で思わずため息をついた。


「また三銀貨のゴブリン討伐やね」

ルナが横であくびをしながら言う。


律が腕を組み、妙にドヤ顔。

「まあまあ。僕らもう連戦余裕だし? 言ってみれば最強パーティーじゃない?」


「この間、自分で爆裂魔法で自滅しかけた奴がよく言うわ」

俺が即ツッコミを入れると、律は「ぐふっ」と変な声をあげて沈黙した。


セレナは眉を下げておろおろ。

「で、でも……強い敵と戦わなくてもいいんじゃ……」


その時、ルナがパチンと尻尾を弾いた。

「甘いわ、あんたら。──正直言うて、今のままやと次の幹部襲撃で全滅するで」


全員の表情が一気に引き締まる。


「えっ……」

「全滅……?」

「やだ、僕まだ寿司食べてないんだけど」


「律、お前最後のそれなんだよ」



依頼を受けて森へ向かう途中。

ルナはずっと前を歩きながら、冷たい声で告げた。


「直樹。あんたの〈社畜魂〉、確かにおもろいスキルや。けどな、器用貧乏で済ませとったら、結局“何も極めんまま死ぬ”」


俺は黙った。

胸の奥がちくりと痛む。

……それは転生前、会社でずっと言われ続けてた言葉だったから。


「俺は……変わりたい。だけど……」


その時だった。


「──へぇ、まだそんな程度なんだな」


声がした。

振り返ると、一本の槍を肩に担いだ青年が立っていた。

銀灰色の髪、落ち着いた青の瞳。

どこかルナと似た雰囲気をまとっている。


「お、お前は……!」

ルナの瞳が珍しく大きく揺れた。


「ルナ師匠。まさか、こんな奴らに付いてるなんて思わなかった」


「師匠!?」

俺と律とセレナが同時に叫ぶ。


ルナは頭を押さえて溜息をついた。

「ああもう……こいつは私の弟子やった奴や。“ジーク”って呼び」


ジークと名乗った青年は冷たく笑った。

「今のままじゃ、お前らは絶対に勝てない。……俺が鍛えてやるよ」



ジークは槍を構え、俺たちに襲いかかってきた。

「いきなり!?」

「死ぬ死ぬ死ぬ!?」


槍の突きが俺の肩ギリギリをかすめ、風圧で木の枝が千切れる。

律は腰を抜かし、セレナは慌てて詠唱を始めるが──

「遅い!」

ジークの蹴りで杖が吹っ飛んだ。


「……くっそ、なんだこいつ……!」

俺は歯を食いしばり、石を拾って投げる。

ジークは軽く弾き、鼻で笑った。


「そんなんじゃ、俺には傷一つつけられねぇな」


その言葉に、胸の奥がカッと熱くなる。


「……ふざけんな。俺は、諦めるために転生したんじゃねぇ!」

思わず叫ぶと、ジークの目が一瞬だけ細まった。


「……ほう。やっと“目”が変わったな」

彼は槍を引き、戦闘を止めた。



「合格だ。俺が鍛えてやる。死ぬ気でついてこい」


そう言って背を向けるジーク。


律はまだ尻もちをついたまま震えている。

「……ねぇ直樹、あれ……ブラック企業の鬼上司感ない?」


「やめろ。思い出すから」


セレナは不安げに直樹を見た。

「で、でも……この人が師匠になってくれるなら……」


ルナは小さく笑みを漏らした。

「ま、ええんちゃう? あんたら、ちょうど修行が必要な時期や」


俺は拳を握る。

「……いいだろ。ジーク、俺たちを鍛えてくれ!」


──こうして、俺たちの“地獄の修行”が幕を開けるのだった。


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