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E07-03 魔自動機械アンとフィリオン

城の扉はひとりでに開いた。


それと同時に、空間がねじれるような感覚に襲われる。


「……ここは、さっきよりもずっとマナが濃いな」


『フィロは気持ちいぃ〜。だけどこの場所、すこしだけ、さびしい感じがする……』


外観からは想像できないほど、内部は広大だった。


室内は淡い光に包まれ、壁面には不規則に刻まれた

螺旋模様が絶え間なく浮かんでは消える。


足元の床は半透明の硝子で、踏みしめるたびに星々がさあっと広がっていった。


「星の中みたいじゃない?」


「ああ、綺麗だ。まるで月の中に吸い込まれたみたいだぜ」


幻想的な城内を見回すレイヴに、軽やかな声が飛んできた。


「やっほーっ、来訪者さーん!」


風のような気配とともに、奥から誰かが駆けてくる。


現れたのは、十歳くらいの子供だった。


鮮やかな緑の髪を肩の高さで切り揃え、白い長衣ローブをまとっている。


一見しただけでは性別はよくわからないが、にこにこと人好きのする笑顔を浮かべていた。


「ずいぶん待ったんだよ。来訪者さんも、だけど……」


歯車のような回転機構が瞳の奥できらめいた。


視線がレイヴ、そしてエルへと移る。


「エルぅ〜!寂しかったよぉ!もっと毎日来てくれないと嫌だよ!ぼくのこと忘れてたでしょーっ!?」


子供は勢いよくエルに抱きつく。


さらさらの髪を撫でてやりながら、エルは困ったように眉を下げた。


「すねないでよ、アン。忘れるはずないじゃない。ほら、ご挨拶して?魔術師レヴィアン――レイヴを連れてきたんだから」


紹介されたものの、レイヴは我慢できずに訊ねた。


「なんでそんなに懐かれてやがるんだ……って、ちょっと待て。そいつは男の子なのか?」


エルの胸に顔を埋める緑色の髪がなぜか急に憎らしくなり、引き剥がしたい衝動に駆られる。


「性別はないよ。ぼくの名前はアン。自己認識単位アンフィリオンの第一層、戦闘と癒し担当!」


「……なんだそれは?」


困惑するレイヴに、エルが笑って言う。


「アンはね、『アンフィリオン』の一部なの」


「いや待て、説明になってるかそれ?」


さらに意味が不明になるところに、子供――アンが明るく答える。


「そう!ぼくとフィリオン、あわせてひとつの個体なんだ〜!」


「…………」


言葉の意味はさっぱりわからなかったが、髪色も瞳も明らかに人間離れしている。


レイヴは警戒を込めて問うた。


「……まさか、おまえ、人間じゃないのか?」


「 「魔自動機械オートマタだよ」 」


エルとアンの声がぴたりと重なる。


レイヴの背筋に冷たいものが走った。


「嘘だろ!? こんな人間そっくりの魔自動機械オートマタなんざ見たことないぜ!」


エルが答えるより先に、冷ややかな声が響いた。


「アン。創造主マスターエルシアに対し、過度な接近行動は不適切です」

 

やって来たのは、アンと同じく白い長衣ローブに身を包んだ、中性的な外見の人物だった。


光沢を帯びた青い髪を束ね、機械じかけの瞳をしている。


「創造主と来訪者レイヴどのにご挨拶申し上げます。私はフィリオン。同じくアンフィリオン単位、第二層。観測・分析・記録・倫理制御担当です。……もっとも、あなた方人間の基準では『倫理』という概念自体が機能不全なので、なかなか理解しかねるのですが」


アンはようやくエルから離れると、悪びれずに言う。


「ちぇっ、たまにしかエルに会えないんだから、ちょっとくらいよくない? 壊してなんかないし!」


「冗談はおよしなさい。創造主マスターエルシアにかすり傷でも負わせようものなら、私があなたを機能停止させます。創造主マスターの安全は、私にとって特別なものなのです」


『ここここ怖い〜。でもぉ……なんかドキドキするねぇ?』


フィロがレイヴの後ろにさっと隠れ、頭だけを出して様子を伺う。


「……自我があるのか? いや、あるよな。見てくれだけじゃなく、心がある。こんな魔自動機械オートマタが存在するなんて……」


「自我。定義:自己を他と区別し、意識的に反応・選択する個体。――でよろしければ、答えは『はい』になります。創造主マスターエルシアが我らをお創りになったその時から、世界は色を持った」


フィリオンが即座に応じる。


「ちょっと待て!おまえが、こいつらを作った……!?」


「うん、そうだよ」


あっけらかんと答えるエルに、レイヴは舌を巻いた。


「……嘘だろ……。本当にこんなもん創ったってのか。どこまで飛び抜けてるんだ…………!古代魔術アーカイア・マギアでこんな精度の魔自動機械オートマタを創れるなんて、どんな文献でも読んだ覚えがないぜ」


「ですが、我々は存在しています。よって、可能性は実証済み。つまりあなたの知識は古い」


「ぼくたち、アンとフィリオンでひとつの個体なんだ!失われた古代魔術アーカイア・マギアの再現じゃなくて、進化形態なんだよ」


アンが楽しげに言った。


「ここにあるのはね、カストゥールが追い求めた旧世界じゃない。新世界を目指す、次世代の魔術だよ」


ぞくり、とレイヴの背筋が震えた。


どこか『生』の気配を感じさせない、無垢すぎる笑み。


先ほど上の城で配膳をしていた魔自動機械オートマタが脳裏に浮かぶ。


あれだって十分先進的だったのに、この二人は――いや、二体と言うべきか――は、まったくの別次元である。


魔自動機械オートマタに知能を持たせるのはある程度は可能だ。


だがそれはあくまでも人間の命令を実行する能力を高めるために過ぎない。


アンとフィリオンは人間に命令されるのではなく、自ら意思を持って行動している。――こんな魔自動機械オートマタはほかに存在しない。

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