前へ目次 次へ 28/50 閑話02 逃亡の記憶 ——星が落ちる音がした。 荒い息を吐きながら、少女は懸命に逃げていた。 土の匂い、焦げた木の匂い。 水分を失った花がひしゃげて潰れ、花びらが無残に地に落ちていた。 かすれた吐息、上下する肩。 けれど、止まれない。 遠くから誰かの足音が聞こえた。 見つかれば、終わる。 身体も、足も、ひどく冷たい。 裸足だった。 泥と血で汚れた足を動かし、瓦礫を越え、草を踏み分ける。 暗い森の端まで来た。 少女は振り返らず、ただ逃げた。 名前も、過去も、すべてを捨てて。