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深淵の蜘蛛の深淵レストラン  作者: カニスキー
幕間 もう一つの前夜祭
23/29

023:万象の織姫と【炎の大剣】

023:万象の織姫と【炎の大剣】


 燻し木の里に、わたくしの酒の醜態という名の置き土産…いえ、未来への壮大な投資を残し、わたくしは再び愛しいあの方の追跡を開始いたしました。

 村長に渡した宝石で、次に来る頃にはさぞ立派な温泉宿が建っていることでしょう。

 ふふ、我ながら完璧な仕事ですわ。


 さて、わたくしの銀の蝶は、パタパタと軽やかに先導してくれます。

 それをトコトコとついていきながら、わたくしは物思いに耽ります。


 あの方(深淵の君)が深淵から出てくるなど、実に珍しいこと。

 それこそ、この前の脱皮のために霊峰に籠っておられた時以来ではありませんこと?

 今思えば、あの時のわたくし、少しだけがっつきすぎておりましたわね。


 滅多に無い深淵の君の抜きたての皮を手に入れるチャンスに、わたくしの溢れるリビドーがほんの少し、ほんの少しではありましたが、いつもは控え目でお淑やかなわたくしを、ちょっぴり大胆にさせてしまっていたのです。

 日に四、五度も「偶然」を装って鉢合わせしたり、ちょっと大胆に「背中の皮を剥くのを手伝って差し上げますわ」などと迫ったり…。

 ええ、もちろん、わたくしの完璧な演技で、全ては偶然の産物として処理できましたが、一歩間違えれば、あの方に警戒されていたかもしれません。


 ですが、その甲斐あって手に入れた、彼の脱ぎたての皮。

 今では秘境の奥底に作っております、秘密の深淵の君専用第三神殿に安置し、自分へのご褒美の時に色々と『堪能』させていただいておりますのよ。


 そんな甘美な思い出に浸っておりますと、少し遠くから、甲高い人間の雌の叫び声が聞こえてまいりました。

 まあ、下等生物の痴情のもつれかしら。

 春先にはよくあることですわ。

 わたくしには関係ございません。


 そう思っておりましたのに、あろうことか、わたくしの銀の蝶がテフテフと、その声がする方へ飛んでいくではございませんか!

(一体どういう事ですの?まさか、深淵の君が近くにいらっしゃるというの?)

 少しドキドキしながら現場に到着いたしますと、残念ながら深淵の君のお姿は見当たらず、それどころか、見るからに悪辣な風体の良からぬ輩たちが、二人の若い女冒険者に襲いかかろうとしているところでした。


 はぁ、知っていましたけどテンションが下がりますわ。

 そして、その女冒険者たちから、確かに、微かに、あの方の残り香がいたしますわね。

 …なるほど、合点がいきました。

 この蝶は、あの方の香りを追っていたのですわ。


 それにしても、この雌たち、あの方とどのような関係なのかしら?

 まあ、よろしいでしょう。

 下等生物とはいえ、あの方に縁のある者たちを、わたくしの目の前で傷つけさせるわけにはいきませんから。


「そこまでですわ、下郎ども」

 わたくしは、輩たちの前に音も無く華麗に降り立ちました。

 一瞬、その場の人間たちは何が起こったのか分からないように呆けておりましたが、わたくしの巨大で優美可憐な蜘蛛の偉容を見て騒ぎはじめました。

「ま、魔獣!?」

「馬鹿な!!本当に魔獣が出るなんて聞いてねぇぞ!!」

「助けて!ママァ!!」

 まったく、下等生物はいつもこうですわ。キーキーキーキー騒ぐだけ。

 どうせ殺されるなら、一矢報いる位の気概が欲しいところですわ。


 そういえば、あの方も、昔一度だけ、私に立ち向かってきた事がございましたわね。

 たしかあの時は、私が深淵の君の食べ残しを回収しようとして、一瞬の気のゆるみで万象具現ステルスが綻んだところを見つかってしまったんでしたっけ?

 あの頃の深淵の君はまだ、魔眼が7つしか開いていない頃でしたので、わたくしとの実力差は明らかだったのにもかかわらず、君は冷静に的確にわたくしに対抗してきたのでしたわね。


 そうそう、戦闘のどさくさに紛れて少しばかりボディタッチをしようとしたところで、君がわたくしに気が付かれないように出していた救難信号で駆けつけてきた黒百合に体の半分を吹き飛ばされたのは、今にして良い思い出ですわ…


 そんな事を考えていると、脚先にコツンと何かがかすれる感じがしました。

 そちらを見てみると、男たちの中のボスらしき男が手に持った折れた刀を見て顔面蒼白になって固まっておりました。

「あ?今、あの方との甘美な思い出に浸っていたというのに。見てわからぬか?このタコ助が!!」


 わたくしは、その顔面蒼白の男に魔糸を巻き付け、万象具現の力でその体を文字通り【タコ】に変えました。


 場の空気が絶望に染まったのを感じますね。


 その場にいた人間は息をするのを忘れたみたいに、地面でウネウネと動く元人間タコスケの蛸を凝視しています。


「お、お助け!!!!!!」


 こんな状況でも動ける人間がいるらしく、一人の男が逃げ出すと、それを追うように残りの男たちも蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。

 わたくしは、そんな男たちに向かって足元でモゾモゾ動くタコスケを、先頭で逃げていく男に投げつけて上げました。

 優雅な放物線を描きながら先頭の男の頭に着地するタコスケ。

 タコスケもびっくりしたのか掴まった頭に吸盤を貼り付けていますわね!

 アハハハ、タコスケのせいで窒息しそうですわ!


 あぁ、笑わせてもらいました。まあ、わたくしは優しいので、あのタコスケも3日くらいかけてジワジワ人間に戻っていくように設定しておきましたわ。

 あの男たちは、わたくしの気分が良くてラッキーでしたわね。

 わたくしと出会って生きて帰った人間など、そうそうおりませんわよ。


 さて、と。

 一通り笑わせていただいたので本題に入らせていただきますか。

 わたくしは残された人間の雌どもに向き直ります。

 雌どもはすでに震えながら土下座の体勢で、何かブツブツと念仏のように唸っていますわね。

 面を上げさせると、あぁ駄目ですわ、目がイッちゃってますわ。

 どうしたものかと考えていると、ふと茶髪の雌の手首に巻かれているエンブレムを見て、わたくしの背に氷柱を突き刺されたような衝撃が走りました!




【炎の大剣 イグニス・ブリンガー】

 評価★★★★☆(持っているだけで自慢できる)


 炎を喰らう超獣「炎喰のサラマンダー」の、逆鱗と心臓を素材とした炎の大剣。

 その刀身は常に陽炎のように揺らめき、持ち主の闘志に呼応して業火を噴き上げる。

 一振りすれば、あたり一帯を焦土に変えるほどの絶大な火力を誇るが、その力を完全に制御できる者は稀。

 下手に扱えば、敵だけでなく、使用者自身、そしてその仲間や街さえも焼き尽くしかねない、極めて危険なじゃじゃ馬。

 森での使用は絶対に推奨されない。


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