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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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刻まれる%、進まぬ道

 ——その時だった。


 「う、うそだろー!?」

 「なんでござるかこの数字は……!」


 拠点の中心で、クロとリュカの叫び声が重なる。あまりの落胆に、ふたりとも手を天に向けて大きく広げていた。


 思わずそちらに顔を向けたハルとサイルの目に飛び込んできたのは、装置表面の表示。


 《10%》


 「……えっ?」

 ハルの声が素っ頓狂に漏れる。


 「今までの、全部で……10%、ですか?」

 サイルが目を細め、計算を始めるように額に指を当てた。


 その数——軽く100個以上の球が装置に送り込まれたはずだった。


 「いやいやいやいや、ちょっと待てって!」

 リュカが装置に詰め寄りながら抗議するように指をさす。

 「100個以上だぞ!? しかも結構デカいやつも入れたし!」


 「それでも、わずかに10%か……」アオミネが腕を組み、ため息をつく。「やっぱり強い魔物の球ほど大きく、効率がいいんだろうな」


 「うむ……手強そうな魔物は避けてきたが、どうやら、何体かは倒さなければいけない可能性が高いでござるな」

 クロが器用にぽふんと地面に着地しながら、厳しい現実を淡々と口にした。


 「……でも、これでゴールはだいぶ見えてきたわ」


 ロザが冷静な表情で装置を見つめながら言った。

 「逆にいえば、少しずつでも、いずれは100%に到達できるってことよ。ギミックやボス戦だったら、いつまでも進めないこともあるんだから——これは、ちゃんと前進してる」


 ハルも小さく頷いた。

 「うん。がっかりもしたけど……でも、やることがはっきりしたなら、またがんばれる気がします」


  その言葉に、アオミネが腕を組みながらにやりと笑った。

 「よし、じゃあ今日はもう休んで、明日からは——大物狙いだな」


 「そうですね」

 サイルも静かに頷く。

 「無理に倒す必要はありません。強すぎると判断したら、すぐにここまで戻ってくる。セーフティゾーンが確保されている以上、安全に探索を進めることができます」


 「了解!じゃあ明日はオレの出番ってことだな!」

 リュカが拳を突き上げて、やる気満々の笑みを見せた。隣でクロも、ふむ、と頷いて跳ねる。


 「……では、明日に備えて、今夜はしっかり休むとしよう」

 ロザが手を軽く叩いて合図を出すと、それぞれが穏やかな空気の中で夜の支度を始めた。


 ハルもポシェットにそっと触れながら、明日に向けて深呼吸する。

 ——まだ道のりは長い。でも、前に進むための仲間がいる。それが、今の自分の力だった。


 *


 翌朝——。


 薄曇りの空のような天井から、柔らかな光が差し込む中、一行は装置の元を出発し、森の奥へと再び歩みを進めていた。

 この日はハルが後衛に下がり、リュカが前衛に立つ布陣。マッピングは前日まででほぼ完成しており、地図をもとに“魔力の高かった地点”を目指していく。


 「よし、この先の谷が、魔力反応のあった場所だな!」

 リュカが地図を見ながら先頭を駆ける。アオミネとクロが左右からそれを支え、警戒を怠らない。


 途中、茂みから現れた中型のカマキリ型魔物を、アオミネとロザが連携して一掃。ドロップはやはり透明な球だったが、手のひらにちょうど収まる程度のサイズだった。


 「……やっぱり、大物とは呼べないですね」

 ハルが球を手に取りながら呟く。サイルが静かに頷いた。


 「ですが、無駄ではありません。数もまた、大事な要素です」


  「うん、でもやっぱり……大きいのも見てみたいですよね?」

 リュカが振り返りながら、いたずらっぽく笑ったその時だった。


 ——バサッ。


 風を切る音とともに、リュカの背後の枝が突然しなり、まるで生き物のように伸びてきた。

 「うわっ——!?」

 声を上げる間もなく、太い蔓のような枝が彼の腰を巻き取り、ずるずると木陰の奥へと引き込んでいく。


 「リュカ!」

 ハルが叫びながら駆け寄ると、枝の先には、森の中に隠れるように立っていた——巨大な一本の大樹。

 幹にはいくつもの節穴のような“目”が浮かび上がり、そこから見下ろすようにこちらを睨んでいた。


 「……木の、お化け……!?」

 ハルの声が、高く震える。


 「でかいぞ、これは……っ!」

 アオミネがすばやく武器を構え、前に出る。


 「今、救出しに参る!」

 クロが枝に飛び乗り、斥候の速さで駆け上がる。


 「これは、階層の“主”クラスかもしれませんね」

 サイルが落ち着いた声で言い、周囲の魔力の流れを即座に確認していた。


 「戦闘開始! リュカの救出を最優先、全員配置につきなさい!」

 ロザが短く指示を出し、既に前線に出ていたアオミネとハルが左右から挟み込むように動く。


 ハルは風魔法で枝を断ち切ろうと、すかさず詠唱を始めた。

 詠唱の最中、ハルはリュカの動きを目で追った。巻き取られた蔓の揺れ方、角度、力のかかり方——狙うのは、その根元だけ。ほんの一瞬の迷いが命取りになる。


 (外したら、リュカに当たっちゃう……でも、やるしかない!)

 ハルは息を詰め、指先に風の刃を集中させた。


 「——《エアスラッシュ》!」


 鋭い風の魔法が弧を描いて飛び、狙いすました蔓の根本を正確に切り裂く。風がはじける音と同時に、別方向から飛び上がったのはクロだった。

 「拙者も一本、いただいたでござる!」


 クロの素早い跳躍が別の枝を一閃に切り裂き、リュカの身体がふっと宙に浮く。


 「よし、今だ!」

 アオミネがすかさず地を蹴り、空中で体勢を崩しかけたリュカをしっかりと抱え上げる。

 「っとと……おい、怪我はないか!」


 「……う、うん! 大丈夫!」

 リュカは驚いたような顔で目を瞬かせ、それから照れくさそうに笑った。


 アオミネは肩にリュカを抱えたまま、素早く木の魔物から距離を取って着地する。

 ハルは安堵の息を吐きつつ、指先の風を胸元でそっと収めた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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