魔物との戦いと学び
その後、ハルたちはマッピングをしながら、ひたすら魔物と戦い続けた。
巨大なミミズのような地中魔獣が突然地面を割って現れたかと思えば、空からは翼の裂けたようなコウモリ型の魔物が奇襲を仕掛けてくる。さらに、厚い鱗に覆われた大きなトカゲのような存在や、毒を持った虫の群れまで——。
それぞれが連携を取り、緊張感を保ちながらも確実に仕留めていく。クロが先んじて敵を察知し、リュカは魔道コンパスで地形をマッピング。アオミネは広範囲を薙ぎ払い、ハルが前衛で踏ん張る。ロザが前線を制圧し、サイルは仲間たちの状態を見守っていた。
そして、探索を重ねるうちに、ある法則性が浮かび上がってきた。
「すいません、やっぱり……この辺の魔物、ちょっと弱くなってきてませんか?」
戦闘の合間、ハルがそう言って地図を確認する。
「……確かに、さっきの地点よりも南側。こっちは端のほうだ」
サイルが頷く。「どうやらこの階層、やっぱり中心部に近づくほど魔物が強くなるようですね。地形と魔力の濃度、それに出現する敵の種類が一致しています」
「つまり、端に向かえば比較的安全ってわけか」
アオミネが剣を肩にかけながら言う。「まあ、緩く戦うポイントとしては悪くねぇな」
「でも、その分球も小さくなるんですよね……」
リュカが少し悔しそうに、手にしたドロップを見つめた。確かに、魔物の強さに比例して球の大きさが変わるのなら——どちらが効率的なのかは、まだ判断がつかない。
「けど、ちゃんと仕組みがわかっただけでも大きな進展だよ」
ハルはにこっと笑って、汗を拭った。「これで戦い方の調整もしやすくなりますしね」
「ふむ、まさに地形を生かす戦術でござるな」
クロが満足そうに跳ねながら、周囲を見渡す。
視線の先では、倒された魔物が淡く光る球を残して霧のように消えていく。
戦いは順調に進んでいた。魔物は次々と現れたが、連携を重ねるごとに対応も洗練され、確かな手応えが得られていた。
それでも、戦闘の負担は少しずつ積み重なっていく。
「……あれ? なんか……少しふらっとしたかも……」
ハルが小さく息をつきながら、おずおずと手を挙げる。「あの、すみません。魔力が、半分くらいに……なってしまいました……」
その声にロザがすぐ反応した。
「じゃあ、一度拠点へ戻りましょう。無理をしてもいいことはないわ」
ハルはうつむきながら、小さな声で呟く。
「ごめんなさい……僕のせいで」
「そんなこと、ないでござるよ」
クロが軽く跳ねて近づくと、どこか抜けた声で続けた。「拙者もへとへとでござる。正直、誰かが“戻ろう”と言ってくれるのを待ってたでござるよ……」
それでも眉を下げて俯いたままのハルに、サイルが柔らかな声で語りかける。
「こんなことで自分を卑下するのは、おやめなさい。ハルくんはまだ冒険者になったばかり。これから魔力もどんどん伸びますよ。それに……誰にだって得意不得意はあります。
不得意なところで手助けしてもらったら、自分の得意なことで返せばいい。それで、十分です」
静かに笑って、彼は続けた。「ハルくんが前に出て頑張ってくれたから、私は後ろで、いざというときのために温存していられたんですよ」
「俺もだぞー!」
リュカが、両手を上げながらぴょんと跳ねるように声を上げた。
「今回、戦闘ほとんどしてないから魔力が全然減ってないだけだぞ! やっと交代できて嬉しいよ。それにやっぱり俺にはマッピングは向いてないみたいだ…… 勘で動くタイプだから……」
それを聞いたアオミネが、肩をすくめながらぽつり。
「……じゃあ、リュカはソロは無理だな。全方向、勘で突っ込んで即ゲームオーバーってやつだ」
「お、俺だって、やろうと思えば……」とリュカが笑いながら抗議し、ハルも思わずくすりと笑った。
その笑顔を見て、皆も自然と表情を緩める。
そうして一行は、臨時拠点へとゆっくりと歩き出した。
拠点に戻るとすぐに、リュカとクロがいつもの調子で盛り上がり始めた。
「よーし、入れるぞー!クロ師匠、次お願いしますっ!」
「承知でござる」
「ナイス師匠!」
ふたりは透明な球を片手に、次々と装置の吸入口に球を入れていく。
その様子を眺めながら、サイルがそっとハルの隣に並ぶ。
「ハルくん」
「はい?」
不意に声をかけられたハルは、すぐに姿勢を正す。サイルは柔らかな声で言葉を続けた。
「今回の戦闘で、光魔法をよく使っていましたね。私、見ていましたよ」
「はい! あの……闇属性っぽい魔物が多かったので、弱点を狙った方がいいかなって思って……!」
ハルは少し照れたように笑った。
「ええ、それでいいと思います。実戦での判断としては的確でした。光魔法の練習にもなりますし、繰り返し使うことで適性が伸びる可能性もありますから」
「……ほんとですか?」
「もちろん。ただし——」
サイルは静かに指を立て、補足するように語った。
「もし、今後“魔力を節約しなければならない場面”に出くわしたら、その時は、ハルくんの持つ“風属性”をうまく使うと良いでしょう。適性が高い属性は、それだけ楽に、少ない消費で魔法を行使できます」
「なるほど……!」
「もちろん、状況によっては弱点を狙う方が効果的な場合もありますが……覚えておいて損はありませんよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
ハルはぱっと明るくなった表情で、ポシェットにそっと触れた。学びが増えるたびに、少しずつ自分の世界が広がっていくような気がしていた。
明日も23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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