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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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100%を目指して

 「私も、そう思うわ」

 ロザが真剣な顔で頷いた。

 「状況を考えると、それが一番納得がいくわよね。そもそも、この階層でドロップするのはそれだけなんだもの……」


 その瞬間——


 「じゃあ、早速……」


 リュカが満面の笑みで、手にしていた中サイズの透明な球を、パイプの開口部にスッと押し込んだ。


 「待っ——リュカ!?」

 ロザが声を上げ、サイルが思わず半歩踏み出す。


 「おい、ちょっ……早ぇよ!」

 アオミネが眉をひそめ、クロはびくりと跳ねながらリュカを見上げた。


 「危険性の検証をしてからにすべきだったでござる……」


 一方で、ハルはというと——


 「……ああ、我慢できなかったんだな……」

 ぽつりと呟いて、呆れたように小さくため息をつく。でもその口元は、わずかに笑っていた。

 (むしろ、ここまでよく我慢してたよね……うん、リュカだなぁ)


 リュカがみんなに一斉に突っ込まれたり、慌てて手を振って弁明したりしているその間にも——


 透明な球体は、パイプの中をシュルシュルと音もなく滑っていった。

 その軌跡には淡い光の線が残り、複雑に曲がる透明の管の中をくるくると螺旋を描きながら進んでいく。


 「……おい、動いてるぞ」

 アオミネが誰よりも早くそれに気づき、リュカの肩越しに装置を睨むように指さす。


 全員がパイプを目で追う中、球体は装置のひとつのドーム状タンクへと吸い込まれていった。


 その瞬間——


 「……変わった?」

 ハルが静かに声を上げた。


 ついさっきまで《0%》と表示されていた、装置表面の黒く滑らかな板状部分。そこに浮かんだ数字が、

 《1%》

 と、ほんのわずかに変化していた。


 「……やっぱり、これを100%にするのが、この階層の“目的”ってことね」

 ロザが表示を見つめながら、静かに言った。


 「セーフティゾーンを作り、帰還用のポータルを設置したうえで、段階的な目標を提示する……」

 サイルは膝を折って草の上に座りながら、装置の構造を眺める。

 「これは“ゆっくりでもいいから、確実に進め”っていう意図でしょうね。無理なら戻れ、と……そういう配慮、悪くないと思います」


 「やることがシンプルで助かるぜ!」

 リュカが腕をぶんと振って元気に笑う。

 「ドロップ集めて入れるだけなら、ぜんっぜん問題なしっ!」


 「ふむ、戦う理由ができたなら、話は早いでござる」

 クロが目を細め、ふよふよと浮かびながら構えるような動作をとる。

 「どんな魔物が出てくるか、楽しみでござるな」


 「よし、出番ってわけだ」

 アオミネも肩を軽く回しながら、黒衣の裾を翻す。どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。


 「……100%になった時、何が起こるんだろう」

 ハルは装置の表示を見上げながら、胸元のポシェットをぎゅっと抱きしめた。

 (不安もあるけど、でも——)

 「まずは、そこまでやってみよう。きっと何かが見えてくるはずだから」


 「じゃあよ、今ある透明な球、全部入れちまおうぜ!」

 アオミネが腕をまくりながら前に出る。

 「クロ、リュカ、手伝え!」


 「承知でござる!」

 クロがぴょんと跳ねて、リュカと並ぶ。


 「よーし、任せて! こういうのなら俺、がんがん入れられる自信あるっ!」

 リュカは目を輝かせながら、球を次々とパイプの吸入口に投入し始めた。


 その様子を、少し離れた場所から眺めるサイルとロザ、そしてハル。

 「こういう時って、あの3人張り切るのよね」

 ロザがくすっと笑いながら、頬に手を添える。


 「ええ……全力なのは、いつもあのメンバーですね」

 サイルもやれやれと肩をすくめながら、次々吸い込まれていく球を見つめた。


 15個ほどの球が装置の中へと入っていったあと、表示が再び更新される。

 《2%》


 「……これはなかなか厳しい戦いになりそうですね」

 サイルが苦笑しながら小さく息をつく。


 「そうでもないわよ」

 ロザはさらりと肩をすくめ、球を放り込む3人の背中に視線を向けた。

 「あの3人がいれば、何とかなりそうな気がしてるもの」


 「……ですね」

 ハルは少しだけ苦笑しながら、静かに頷いた。


 それぞれが役割を確認し合うその空気には、静かな決意が流れていた。


 その後、第三階層の巨大装置の足元に、臨時の拠点が再び設けられた。


 設営を終えたばかりのタープと小型テントの下、簡易マップを囲んで全員が腰を下ろす。焚き火の火が柔らかくゆらめき、空気にほんの少し焦げた草の匂いを混ぜていた。


 「じゃあ、まずは探索範囲の拡大ね。まだこの階層の全貌が見えたわけじゃないし、まずは全体を確認しましょう」ロザが淡々とした口調で切り出す。


 「全員で動く、ってことで異論はないな?」アオミネが腕を組んで周囲を見回すと、全員が頷いた。


 「単独行動はリスクが高すぎる」サイルが重々しく言う。「それに、魔力の残量を意識しながら進むことも大事。目安として、誰かが魔力を半分消費したと思った時点で拠点に戻る。それでどうでしょう?」


 「じゃあこのタイミングで、リュカくんとハルくんの役割分担を交代しましょうか」

 ロザが皆を見渡しながら告げる。柔らかくもきっぱりとした声に、一同が小さく頷いた。


 「うーん……」と、その隣でリュカが浮かない顔をしていた。「じゃあ、俺……今回は後衛か……」


 「あら、交代するって言ったでしょ」ロザが苦笑混じりに肩をすくめる。「戦闘だけが冒険じゃないの。情報を残すのも、大切な役割よ」


 「……それはそうですけどぉ〜〜っ」リュカは膝を抱えて小さくうずくまる。


 「気持ちはわかるけど、前衛は俺たちに任せとけって」アオミネがポン、とリュカの肩を叩く。「お前がしっかりマップ作ってくれたら、次の日はまたバリバリ前に出られるさ」


 「……はいぃ」渋々ながら、リュカはアークノートを開いて魔道コンパスを確認し始めた。


 一方、ハルはぎゅっと拳を握って立ち上がる。「……前衛、やってみます。怖いけど……やっぱり、みんなの背中を守れるようになりたいです」


 その言葉に、クロが満足げにふよんと宙を揺れ、「ならば、前に立つ意味、じっくり教えてやろう」とどこか誇らしげな声を上げた。


 戦闘の主力は、クロ・アオミネ・ハル・ロザの四人。


 クロが斥候と迎撃、アオミネとハルが広範囲攻撃と防衛、ロザが正面からの制圧。



「これで戦闘の形は見えましたね」サイルが頷く。「私は、極力魔力を温存しておきます。何かあった時のために、備えておきたいですから」


 「座学も大事……だな……」リュカが再び浮かない顔をしながらも、アークノートに丁寧にページを重ねる。


 準備は整った。透明な球の数はまだわずか。進捗は2%止まり。


 けれど、焦りはなかった。むしろ、やるべきことが明確になった分だけ、空気は引き締まり、士気も高まっていた。


 「じゃあ、さっそく行きましょう」ロザが立ち上がり、腰の剣に手を添える。「次の敵が何であっても、全力でいくわよ」


 ハルは深く息を吸い、頷いた。


 ——ダンジョンの謎を解く鍵は、まだ見えない。

 それでも、確かに前へと踏み出す力が、今、ひとつの形になっていた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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