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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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巨大な装置

 ジャングルの木々が唐突に開けたかと思うと、その先にそびえていたのは、異様な存在だった。


 「……えっ、なに、あれ」

 ハルが思わず口にする。


 生い茂る草木の中、ぽっかりと空いた空間の中央に、巨大な金属のタンクのような構造物が鎮座していた。表面はくすんだ銀色で、ところどころ苔に覆われているが、魔法陣が刻まれており、確かな“人工物”だと示していた。


 そこから何本もの透明なパイプが伸び、周囲の木々の間へと入り込んでいる。タンクの下部には、不規則に点滅する魔導灯のような光が見えた。


 「でっけぇ……あれはなんだ?」

 リュカが息をのむ。

 「森と同化してるようで、まるで異質……不自然だな」

 アオミネは腕を組みながら、目を細めていた。


 「完全に機械仕掛けの魔導構造物……だけど、あのパイプ……何を流しているのかしら」

 ロザは腰に手を当て、冷静な口調ながらもわずかに眉をひそめる。


 「何らかの動力を集めている、あるいは放出している可能性もあります。周囲の魔力量が、ここで一気に跳ね上がっています。……中心部、間違いありません」


 「こ、これって……この階層を突破するための、何かしらのギミックなんでしょうか……?」

 ハルが目を丸くしながらも、真剣な表情で構造物を見つめる。その声には、驚きと同時に、冷静な推察が滲んでいた。


 「うむ、見れば見るほど怪しいでござるな……」

 クロが低く唸るように言い、タンクから伸びる一本のパイプに視線を這わせる。

 「何かを“作っている”装置にも見えるでござる。……魔物か、それとも別の何かか」


 一同は、誰からともなく足を止めた。

 木々の切れ間に忽然と現れた巨大な構造物に、全員が無言で視線を注ぐ。


 「……とりあえず、近づいてみましょうか」

 静寂を破ったのはロザだった。表情は変わらず冷静。しかしその目には、探究の炎が小さく揺れていた。


 その言葉に、サイルが小さく頷く。

 「近くに魔物の気配はないですが、装置への接近は慎重にいきましょう」


 それぞれが警戒を解かぬまま、静かに足を踏み出していく。踏みしめる草の音と、循環する液体のかすかな響きだけが、空間を満たしていた。


 木々の間を抜け、視界が開ける——その瞬間、思わず息を呑む。


 「……でけぇ」

 リュカが思わず呟いた。


 そこにあったのは、円柱状の巨大な装置が四台。上部は丸く膨らんだドーム状で、直径は家一軒ぶんはあろうかという大きさ。

 それぞれの装置は太い透明パイプで互いに繋がれ、静かに、けれど確実に、何かを循環させている。


 「……構造的には、大型の実験装置ですね。かなり本格的なつくりです」

 サイルは目を細めながら、装置の全体を観察するように見上げた。穏やかな声音の奥には、明確な分析の気配が漂っていた。


 「……これ、何だろう……黒くて平たい板……」

 ハルがしゃがみ込み、装置の表面に取り付けられた、不思議な素材の板をじっと見つめる。鏡のように光を反射するが、どこか冷たくて無機質な印象を受けた。


 「こっちの丸いのは……吸入口、かな。頭ひとつ入りそうな大きさだ……」

 その隣には、淡く光を放つ透明なパイプが接続されていて、縁の部分がまるで呼吸しているように、かすかに脈動していた。


 「ふむ。これは……魔力の循環装置か、それとも……」

 クロがふよん、と跳ねながら装置に近づき、何やら鼻先で匂いを嗅ぐような仕草をする。


 「……空気の流れはあるな」

 アオミネがじっとパイプに手をかざす。

 「吸い込んでる。微かだけど、確かに何かを取り込もうとしてる感触だ」


 「なるほど……それなら、この装置は“外から何かを取り込む”ための機構かもしれないわね」

 ロザは装置全体に視線を巡らせながら、指先を唇に当てる。瞳には静かな探究の光が宿っていた。

 「目的はわからないけれど……無作為なものじゃない。明確な意図がある作り」


  ロザがじっと装置の構造を見つめながら、静かに呟いたその直後——


 「……あの、ここ……赤いスイッチみたいなのがついてます」


 装置の脇にしゃがみ込んでいたハルが、小さく手を挙げながら振り返る。彼の指先には、金属の縁に埋め込まれるようにして輝く、小さな丸い突起があった。赤く淡い光を発していて、押せそうな形状をしている。


 「これ、押せそうなんですけど、押しても……いいでしょうか?」

 慎重に、けれど好奇心を抑えきれない声で、ハルが皆を見回した。


  一瞬、静けさが流れる。そして——


 「階層ボスが出てくる可能性はあるな」

 最初に応じたのはアオミネだった。腰に手を当て、装置の上部を鋭く見上げながら言う。「このスケールだ。何がいても不思議じゃない」


 「ふむ、それもありうるでござるが……二階層の最後を思い出してみよ。転移、という可能性も高いでござる」

 クロが真剣な目で周囲を見渡しながら口を開く。「押したとたん、別の空間に引き込まれるような術式が発動することも、充分考えられるでござるな」


 「仕掛けを起動することで環境そのものが変わる可能性もあります」

 サイルは淡々と、しかし確信めいた口調で言った。「例えば気温の上昇や、視界の変化、あるいは毒霧の発生なども……」


 「転移やボス戦に加えて、何らかの“選択”を迫られる可能性もあるわ」

 ロザは装置の構造を注意深く観察しながら続ける。「外部からの魔力を受け取って起動するような仕組みかもしれない。押す行為が、何かの“合図”になっているなら……ね」


 「……いろんな可能性、あるんですね……」

 ハルはごくりと唾を飲み込みながら、それでも目を離せずにいた。


  赤く静かに光るスイッチは、まるで彼の迷いを映すかのように、ぴたりと脈動していた……

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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