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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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テイムのお願い

 「……クロに外の世界を見せてやることはできなかったけどさ。それでも俺は、ずっとあいつと一緒に過ごしてきたんだ。洞窟に通って、本を読んで、遊んで、喋ってるつもりになって……毎日があっという間でな。クロと離れるつもりもなかったし、村でそのまま暮らしていくんだろうなって、ぼんやり思ってた」


 ふ、とアオミネが草を踏みしめる足をゆっくりと前へ出す。語り口は穏やかだったが、そこには確かな想いがあった。


 「そんな日々が二年ほど続いて……気がついたら、俺は十歳になってた」


 「……十歳」

 隣を歩いていたハルが、小さくつぶやいた。自分の最近の記憶が頭の中をよぎる。

 ——リュカ達と受けた鑑定結晶のこと。ツムギお姉ちゃんが笑ってくれたこと。

 まだ昨日のことのように鮮やかだった。


 「そう、ハルもこの間受けただろ? “鑑定結晶”の適性検査」


 「あ……はい! ちょっと緊張したけど……」

 ハルがくすっと笑う。


 「俺も、街まで行って受けたんだ。周辺の村の子どもは十歳になるとまとめて連れてかれるんだけどな。まぁ、クロを置いて行くことになるから、乗り気じゃなかったけど……」


 アオミネは肩をすくめてみせた。


 「それで、わかったんだ。俺には“テイマー”の適性があるって。あと、“闇属性”もな」


 「テイマーと……闇属性」


 ハルの声には、驚きと小さな憧れがにじんでいた。まるで、クロとアオミネの冒険の始まりを、その場で見ているかのようだった。


 「そう。正直、自分でもピンと来なかったんだ。闇属性なんて、かっこよすぎるしさ。テイマーはどういう職かは知ってたけど……友達を“テイム”するってのは、なんか違う気がしてな」


  アオミネはふっと笑った。その横顔は、どこか面白げでもあった。


 「悶々とした気持ちを抱えたまま、洞窟に戻ってさ。クロに話したんだよ、“俺、テイマーだったらしい”って」


 そう言って、アオミネは肩をすくめ、思い出し笑いを浮かべた。


 「そしたらあいつさー、もう“今すぐテイムしてくれ!”って感じで、ぴょんぴょん跳ねながら目の前でプルプル震えてな。『ほれほれ』って感じで、こっちに飛び乗ってくるんだよ。意味わかんねえよな」


 ハルは思わず吹き出しそうになるのをこらえながら、でも目を輝かせて聞いていた。


 「テイムって、本来は上下関係が生まれる契約なんだ。力で従わせたり、命令を強制できたり……ふつう、やられる側から頼むようなもんじゃないんだよ。嫌がるやつも多いし、仲が悪くなる例だってある」


 アオミネの声は、ふと真面目な色を帯びる。


 「俺は……あいつが、俺と一緒にいたいから、願ってくれてるんだって思ったんだよな。すっげぇ感動してさ、泣きそうになったくらいなんだけどさ」


 アオミネはそこで肩を震わせるように笑い、顔を少しそらす。


 「でも、あとから——喋れるようになってから聞いたんだよ。なんであのとき、あんなに積極的だったのかって」


 言いながら、彼はクロの真似をするように、ほんの少し芝居がかった調子で言葉を続けた。


 「『テイムされたら、洞窟の外に出られるかもしれぬでござるか! そんなチャンス、逃すものかと思ったでござる!』……ってよ」


 アオミネは苦笑いを浮かべながら、草の上に腰を下ろした。


 「……まったく、クロらしいよな。感動返せって言いたかったけど、まあ、笑ったよ」


 隣で聞いていたハルも、堪えきれず思わず顔を背け笑った。でも、そういうところも含めて、二人の絆がずっと続いてきた理由なんだと、少しだけ胸が温かくなるのを感じていた。


 「……それで、テイムするってことになったんだけどな」


 アオミネは草を踏みながら、ふと空を仰いだ。


 「俺、適正検査受け終わった後、すぐに村に戻ってきたから、初心者講習とか受けてないし、ちゃんとしたやり方なんて全然わからなくてさ。……だから結局、自己流になっちまった」


 彼の声に、どこか懐かしさが滲む。


 「俺は対等でいたかった。命令したりされたりって関係じゃなくて、あくまで“相棒”として一緒にいたかったんだ。……だからな、こう願ったんだ。嫌になったら、お互いに契約を解除できる。縛られずに、ずっと隣を並んでいける関係でいたいって」


 そう言って、アオミネは静かに腕をまくった。露わになった肌に、黒と銀が入り混じるような不思議な紋章が刻まれていた。


 「クロをぎゅっと抱きしめて……ただ、そう願ったんだよ。そしたら、あいつの体にも、俺の腕にも——テイムの紋章が浮かんだ」


 風が二人の間を吹き抜け、ハルは思わずその紋章に目を見張った。


 「……普通はな、紋章ってのは魔物の側だけに出るもんらしい。でも、俺たちには、両方に出た。後から知ったんだけど……“共鳴型テイム”ってやつだったらしい」


 アオミネは肩をすくめる。


 「だから俺とクロは、お互いに“テイムし合ってる”のかもしれないな。……面倒だけど、悪くない関係だろ?」


 そう締めくくる彼の声には、誇らしさと、少しの照れが滲んでいた。


 「それからは、ずっと一緒なんだ」


 アオミネが草を踏みしめながら呟いたその言葉に、ハルは目を輝かせながら尋ねた。


 「テイムしてすぐ……話せるようになったんですか?」


 「いや、あいつが話し出したのは、ずっと後だな」

 アオミネは笑いながら首を振った。「最初は言葉なんか一つも喋れなかったさ。でもな、元々俺と一緒に勉強してたから、文字盤を使って簡単なやりとりはできたし、意思疎通はできてた。……まぁ、こっちが勝手にわかってる“気になってた”ってだけかもしれんけどな」


 そう言って、どこか懐かしむように空を見上げる。


 「でも、“言葉にならない言葉”ってあるだろ? あいつはそれを、昔から持ってた。ぷるぷる震えたり、ぐいって伸びてきたり……伝わってきてたんだよ。いつか喋るだろうなって思ってたけど……まさか、あんな話し方になるとはな」


 「……話し方?」


 「そう。あいつ、異国の古い本が好きでな。俺が読もうとしてもさっぱりだったやつを、真剣に読み込んでて……気づいたら、語り口までそのまま真似てたんだよ。なんつーか、侍みたいな口調ってやつ?」


 アオミネは肩をすくめ、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに笑った。


 「だから今じゃ、言葉の使い方は……俺より上手いんじゃねえかな。あいつ、たまにわざと難しい言葉使ってくるからな。こっちが“ん?”ってなるのを楽しんでる節もある」


 アオミネの声に、草原を渡る風が優しく重なった。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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