臨時拠点の設置
その頃、ハルとリュカはというと——
草むらに膝をつき、夢中で魔導鉄の破片を拾い集めていた。
「この色、見て! ちょっと青みがかってるよ!」
「おっ、本当だ!これは前のとは違うかもな。もしかしたら合金かもな? エドさん、絶対テンション上がるやつだろ、これ!」
ハルは袋の中身をそっと整えながら、ふふっと笑った。
「これでまた、何か新しい発明ができるかも……。ツムギお姉ちゃんにも見せたいなぁ」
その時——
「ハル君、リュカ君。ちょっとこっちに来れるかしら?」
ロザが優しくも芯のある声で呼びかけてきた。ふたりが振り向くと、帰還陣の近くで手を軽く振っている。
「はーい!」
リュカが元気よく立ち上がると、ハルもすぐに続く。
ふたりが帰還陣のそばまで駆け寄ると、ロザはその目をふたりに向け、穏やかに語りかけた。
「魔導士戦お疲れ様。よく頑張ったわね。……それでMP回復も兼ねて、2、3日ほど、このセーフティゾーンで休もうかと思っているのだけれど、どうかしら?」
彼女の声には、緊張を解きほぐすような柔らかさと、長い戦闘の疲れを労わる気遣いが滲んでいた。
彼女の声には、緊張を解きほぐすような柔らかさと、長い戦闘の疲れを労わる気遣いが滲んでいた。
「はい……確かに、僕もMPかつかつです……」
ハルが苦笑いを浮かべながら、頭をかいた。
「実は、私もギリギリで……」
サイルもやや困ったように笑い、そっと自分の指先を見つめる。
「みんなにヒールをかけたいのですが、少し休まないと、回復の魔法もうまくいかないかもしれません」
「それなら、無理せずいこう」
アオミネが腕を組みながらうなずいた。
「マナポーションも使えば減る一方だ。温存できるときは、温存した方がいい」
「えっ、俺はまだ動けるけど?」
リュカが元気よく手を挙げ、にかっと笑う。
「魔法もたぶん、あと何発かいけるかも!」
その勢いに、ハルとサイルが顔を見合わせた。
「……体力お化けだな」
アオミネがぼそっと呟き、隣でクロがこくりと頷いた。
「確かに。回復も早ければ減るのも遅い……まこと、天賦の資質でござるな」
リュカは嬉しそうに笑いながら、「褒められてる気がする!」と自信満々に胸を張った。
「じゃあ、早速——このあたりに臨時拠点を設けましょうか」
ロザが帰還陣の近くまで歩み寄り、足元の草を踏みしめながら周囲を見渡す。柔らかな月光のような星の明かりが地面を照らしており、視界は思った以上に悪くない。
「こういう時はね、万が一の事態に備えて、帰還陣の近くに野営地を構えるのが基本なの。すぐに撤収できるし、緊急時の対応も早くなるから」
ロザの声は穏やかで、それでいて指先はすでに手際よく荷物の中を探っていた。
「なるほど……確かに、そう言われてみれば!」
ハルが感心したように目を輝かせる。
一方で、リュカはロザたちの装備に目を丸くしていた。
「……え? それ、テントなんですか? あんな小さな袋に入ってたのに!?」
「うむ、小型収納魔具の一種でござるな」
クロが軽やかに解説する。
「対象物を一定サイズまで圧縮し、所定の封魔符で保持する技術……“無限収納”の類とは違うが、普及はしておる」
「すごい……魔導具ってほんと便利だなぁ……」
ハルは地面に広げられた寝具を見つめて、思わずつぶやいた。
テントの骨組みは、まるで自動展開するかのようにぱたぱたと立ち上がり、布地が自然に張られていく。ほんの数分で、六人分が入れる居住性のある拠点が完成していた。
「わー……これ、絶対みんなが好きな仕組みのやつだ……」
ハルはぽつりとそう言いながら、周囲の構造をまじまじと観察していた。
リュカは地面に腰を下ろしながら、自分のくたびれた荷物袋をぽすぽすと叩いていた。
「俺のもこんな風にならないかなぁ……。パッと開いて、シャキーンって立って……かっこいいし、便利だし、最高じゃん……」
そのつぶやきに、アオミネが腰の袋から火打石を取り出しつつ、苦笑いで応じた。
「……魔導具は高いぞ。こういう収納型だと、いいものは百……いや、下手すりゃ百五十万ルクくらいはする」
「えぇ!? 百万ルク!?」
リュカが叫ぶように振り返る。
「これは、私たちのパーティーで共同購入したものなんです」
サイルは設営の手を止めずに、淡く微笑んだ。
「個人で持つには少し重すぎる価格ですからね。でも、その分だけの価値はあります。……こういう便利な魔導具は、ダンジョン由来のものが多くて、総じて高額なんですよ」
「いつか絶対欲しいな〜……」
リュカは星空を見上げながら、いつかの未来を思い描くように目を細めた。
「その点、ハルはいいよなー! あのポシェットがあるからさ!」
「あ、うん……でも、この子も限界はあるよ……」
ハルは少し苦笑いしながら、自分のポシェットをそっと撫でた。
「ずっと一緒に来てくれてるから、労ってあげないとね」
ロザがそれを聞いて、目を細める。
「“この子”って……まるで生きてるみたいに話すのね」
「たまに、僕の声に反応するみたいに震えたりするんです。……本当に、意思があるみたいで」
ハルは不思議そうに、けれどどこか愛おしげにポシェットを見下ろした。
「……そのポシェット、カイルが作っていたやつだろ?そんな仕掛けはなかったはずだが……」
アオミネが火を灯しながら、眉をひそめて言った。
「はい!父と母が作ってくれたものなんですけど、ずっと使っていたら、ボロボロになっちゃって……それをツムギお姉ちゃんが直してくれて……」
ハルは少し照れくさそうに笑う。
「その時に相結が起きたみたいなんです。進化するポシェットになって……あの、ツムギお姉ちゃんの創術ってすごいんです!」
サイルがハルの背中越しにそのポシェットを覗き込むようにして、感心したように頷いた。
「さすが、POTEN創舎……。聞けば聞くほど、魅力的ですね。羨ましい限りです」
クロは星空を見上げながら、「創舎の名は伊達ではないでござるな」と、しみじみと呟く。
テントの中からは、穏やかな光が漏れている。明日を迎えるその場所には、ただ静かで優しい時間が流れていた。
明日も23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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