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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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魔導士達との戦い終結

 雷の魔導士のターンが終わると、水の魔導士が宙へと浮かび上がり、頭上から鋭い水の刃を降らせてきた。


 「水属性……これは私の仕事ね」


 ロザの声は冷静だった。詠唱を終えた彼女の手から放たれた《ウォーターボール》が、まっすぐに飛び、水刃と空中でぶつかり合う。


 ——ごうっ!


 激しい水しぶきが弾け、魔導士の攻撃は見事に中和された。


 「はい、次は私の番ですね」


 サイルが滑らかな動きでハルの背に近づき、構えている属性盾をちらと見やる。


 「いきますよ、ハル君。雷属性、準備万端ですか?」


 「はい、準備万端です! 当てる場所は、あの角度……!」


 ハルは盾の角度を慎重に調整し、指先で光の軌道を思い描く。サイルが放った《ライトボール》は、鋭く一直線に飛び、ハルの盾に命中した。


 ——きぃん!


 反射された変化した雷の玉は、ハルの計算した通りの角度で、見事に魔導士の胸元へ直撃する。


 「……っ!」


 魔導士の身体が大きくのけぞり、わずかにその外套が乱れる。完全に倒れはしなかったが、明らかに効いていた。


 「……やりましたね、ハル君」


 「うん! ちゃんと、当たった……!」


 二人は顔を見合わせて、思わず同時に笑みを浮かべる。


 その一瞬の達成感が、重く張りつめていた空気をわずかに緩め、戦場に確かな希望をもたらしていた。

 そして——今の一撃が、ハルの仮説を確かに証明していた。


 次の瞬間、空気が濁るようにして現れたのは、淡く紫がかった外套を纏った魔導士。その手から噴き出すように、濃密な毒霧が室内に広がっていく。


 「——ウインドサークル!」


 ハルが即座に詠唱し、風の防壁を展開する。巻き起こった風が毒の粒子を巻き上げ、視界の端へと押し流していく。


 「ナイス、ハル!」


 リュカが息を整えながら振り返り、親指を立てた。


 戦いが続くにつれ、仲間たちの動きにもわずかな乱れが生じてきていた。呼吸は浅く、額には汗が滲み、それぞれの衣服の端には擦過傷や小さな切り傷が増えている。だが、それでも誰ひとりとして退こうとはしなかった。


 「さて……吉と出るか、凶と出るか……」


 クロが低く呟きながら、身体の一部を剣状に変化させる。毒霧を避けながら滑るように前進し、そのまま跳ね上がるように斬りかかった。


 「俺が正面、任せろ」


 アオミネがすっと脇から回り込み、素早く剣を抜いて斜めに振り抜いた。連携は極めて自然、長年の戦友らしさがある。


 魔導士は、宙を漂いながらその攻撃を真正面から受ける。クロの刃が淡く光の粒を弾き、アオミネの一撃が衣の裾を裂くように通過する。


 そして——魔導士の身体が一瞬硬直し、紫の光を放ちながら崩れ落ちるように霧散していった。毒の魔導士、撃破。


 「……やった、でござるな」


 クロが刃を元の姿に戻しながら、すうっと背を伸ばす。その目は珍しく細められ、静かな満足感がにじんでいた。


 「ふっ……斬れるってのは、やっぱり気持ちがいいな」


 アオミネも剣を肩に担ぎ直し、にやりと笑った。「毒だろうが何だろうが、俺達はやる時はやる。それだけだろ?」


 二人の言葉に、空気が少し和らいだ。


 ——残るは、水と雷。


 だが、既に勝機は見えている。仲間たちの表情には疲労の中にも確かな自信が宿っていた。


 次に姿を現したのは、雷の魔導士だった。


 「よし、今度こそ——!」


 リュカとロザが互いに頷き合い、再び配置に走る。


 雷の魔導士が掲げた手から、鋭くうねる稲光が放たれる。咄嗟にロザが身を翻しながら回避し、同時に詠唱を始めた。


 「《水球魔法・ウォーターボール》——!」


 放たれた魔法が、リュカの構えた属性盾へと吸い込まれるように着弾する。リュカはすでに、セット済みだった土の属性盾で受け止める。


 「いっけえぇぇっ!」


 盾をわずかに傾けながら、タイミングを見計らって反射。魔力の光が斜めに弾かれ、雷の魔導士めがけて一直線に放たれた。


 ——直撃。


 雷の魔導士の身体が大きくのけぞり、うなりを上げるように光を噴き出す。


 「……やった! 当たった!」


 ロザが驚き混じりに声を上げ、リュカは満足そうに肩をすくめた。


 「よし!やっとコツ掴めたかも!」


 「さっすがリュカ君、素直な勘ってやつね。さすが野生児」


 ロザがくすりと笑いながら、次の詠唱準備に入る。


 一方その頃、後衛からその様子を見ていたハルが、思わず目を丸くして呟いた。


 「リュカって……やっぱりすごいなぁ。僕なんて、慣れるまでに何時間もかかったのに……たった二回でコツを掴むなんて……」


 感嘆と羨望が入り混じったような声。その隣でサイルが控えめに微笑み、ぽつりと添えた。


 「素直な子ほど、適応が早いんですよね。素敵な才能です」


 雷の魔導士は、まだ完全には崩れていない。しかし——手応えは確かにあった。あと数撃、この連携を繰り返せば、勝利が見えてくる。


  魔導士たちの魔法攻撃が次々に放たれる中——前線では、クロとアオミネが盾となって仲間を守り続けていた。


 「こっちは引き受けた。お前らは集中しろ」アオミネが低く声を張り、氷属性の刃を片腕で薙ぎ払う。


 「拙者、耐えるの得意でござるゆえ」クロはぐにゃりと身体を広げ、雷撃を自ら引き寄せるように受け止めると、粘体の表面に小さく火花が散った。


 後衛では、リュカとロザが再び雷魔導士に対してコンビネーションを繰り出す。


 「いくよ、リュカ君! 次の角度は少しだけ右に……!」


 「はいっ!」


 ロザの放った《ウォーターボール》が、リュカの構えた属性盾へと吸い込まれ、そこから土属性の力で跳ね返された。見事な角度で雷魔導士の胸元に命中し、魔導士の身体が揺らぐ。


 一方、反対側ではハルとサイルのペアが、水魔導士に狙いを定めていた。


 「ライトボール、いきますよ——ハル君!」


 「了解です!」


 サイルの光魔法が、雷をセットしたハルの盾にぶつかる。ハルは両腕で盾を支え、ぴたりと反射角を合わせた。


 「今だっ……!」


 ピシィッという音と共に、雷属性の光弾が放たれ、水魔導士の中心部を貫いた。


 魔導士は一瞬ふらついた後、重力に抗えぬようにゆっくりと崩れ、霧のように姿を消した。


 「やった……!」


 ハルの声に、サイルもふっと目を細めた。


 「……いい連携でしたね」


 だが、気を抜く間もなく、最後に姿を現したのは、雷の魔導士。


 リュカが盾をぐっと構え直し、ロザがその隣で軽やかに詠唱を始めた。


 「ラストにするつもりで、いくわよ一撃!」


 「はい!これで終わらせる!」


 ロザの放った《ウォーターボール》が、リュカの盾に吸い込まれ、土属性の反射光となって魔導士を撃ち抜く。


 雷の魔導士が短く叫び声を上げるように揺らぎ、崩れ落ちるように霧散していく。


 ——静寂。


 部屋に残る魔力の波紋が、ゆっくりと消えていった。


 「……全員、やったな」アオミネが剣を肩に乗せ、息を吐く。


 「拙者、しばらく静電気は勘弁でござる……」クロがぺたりと床に座り込み、ぷるぷる震えた。


 ロザは軽く呼吸を整えながら、後ろを振り返る。


 「皆、お疲れさま。……勝利よ」


 戦場に、ようやく訪れた静けさ。


 魔導士たちとの戦いは終わった。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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